第三章
闘盟帝国。それは厳密な意味において、政教一致の国家である。
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なぜなら、そこは「闘神」によって興された国だからだ。闘神は神の座へと昇る際、国で最も強き者のみが皇帝を名乗ることを許し、さらに最高戦力に常に活力を保たせるため、帝位は一年ごとに交代するよう命じた。
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一連の大会を経て、その頂点に立った優勝者こそが、新たなる「闘帝」となるのだ。
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そして「即位大典」は、闘盟帝国における年に一度の一大イベントである。毎年、周辺諸国の武道界から多くの人々が観戦に訪れ、今や一大ブームとなっていた。
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なかでも最も注目を集めるのが、闘帝即位の儀において、闘神が遺した聖遺物――「聖闘士の衣」を纏わなければならないという点だ。伝説では、この衣を身に付けた者は絶対不敗の力を得るとされている。
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しかし、その力があまりに強大すぎるため、日常生活や大会の試合中に着用することは当然許されない。諸神の和約による拘束のもと、全世界から戦争が消え去り、天災さえも滅多に起きなくなった現代において、聖闘士の衣がその真の姿を現すのは、この年に一度の即位大典をおいて他にないのだ。
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「さあ、お迎えいたしましょう! 新たなる闘帝、ベレゾノフ!!」
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天地を揺るがす大歓声とともに、パチパチと小気味よい足音が遠くからステージへと近づいてくる。黄金の仮面を被り、大帝のマントを羽織った新闘帝が、ゆっくりとステージの中央へと歩み進めてきた。
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そして、彼は仮面を脱ぎ捨て、マントを翻し、両手を高く掲げて威風堂々たる咆哮を上げた!
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「おおおーーっ!!」
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――しーん。
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(ひそひそ、ざわざわ……)
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観客がこれほど奇妙な反応を示すのも無理はなかった。なぜなら、勝者の咆哮を上げている闘帝が身に付けているのは、どう見ても「女性用のボンデージ」であり、おまけに口には「ボールギャグ」を咥え、体は「亀甲縛り」でがんじがらめにされていたからだ。
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筋肉の隆起した僧衣姿のスキンヘッドの大漢が、突如として天を仰ぎ、血を吐きながら言った。
「人は誰もが、闘帝には一騎当千の勇があると噂する。私はそれを信じなんだ。『勇』の一文字を我が武道の極意としてきた不詳この身、今日この時、ついに真の『勇』とは何たるかを目にすることとなった……。私などの及ぶところでは、ない」
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そう言い残すと、武僧は寂しげに立ち去った。お気に入りの爪型の武器さえも地面に投げ捨てて。彼は、これまで貫いてきた武道を完全に捨て去ってしまったのだ。
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また別の、長い髪をなびかせた剣客は、突如として顔面を蒼白に染めた。まるで凄まじい苦痛に耐えかねたかのように口元から一筋の血を流し、呟く。
「天下の妖魔を斬り尽くし、天下の美酒を飲み干さんと志してきた我が身なれど……まさかこれほどまでに雄渾無比なる『意志』を目の当たりにしようとは。よかろう、よかろう。私は山に戻り、一から修行をやり直すとするか……」
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そう言うと、剣客は足取りもおぼつかなく、ふらふらと広場を去っていった。心神を激しく揺さぶられた結果、武道の根基は完全に崩壊し、その修業の成果はすべて無に帰してしまったのである。
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「あいつら、頭おかしいんじゃねえの?」
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「ここ数年、帝国が雇うサクラの演技、どんどん大げさになってない?」
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「あんな格好してる奴と誰が戦いたがるんだよ。勝っても不名誉だし、負けたらそれこそ一生の恥だ。不敗なのも納得だわ」
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「こんな公開処刑みたいな羞恥プレイ、よくも毎年毎年、身代わりを見つけてくるもんだよな。闘盟帝国なんて言ってるけど、本質は『ドM帝国』だろ、これ」
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「しーっ……! 声がデカい、命が惜しくないのか! 黙って即位大典だけ見てりゃいいんだよ。帝国の連中を刺激するな。前にそれを口にした奴の墓には、今ごろ3メートルもの草が生い茂ってるぞ!」
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闘帝:『……お前らのひそひそ話、全然小さくねえよ! 全部丸聞こえなんだよおおおおお!!!』
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『俺がここまで勝ち上がってきたのは、めちゃくちゃ正規の格闘大会だからなあああああ!!!』
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周囲の者たちの目には、闘帝が激しく拳で胸を叩き、天を仰いで咆哮し、王者の風格を遺憾なく見せつけているように映っていた。
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……全身ドMの緊縛ルックのままで、ではあるが。




