表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】「俺だけが全部覚えている~三年分の搾取を、事実だけで清算する~」  作者: 志喜  陽斗
第五章「清算と反撃の三週間」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/100

第64話「見えない王国の崩壊、あるいは最初の踏み込み」

高梨が来たのは、朝の六時だった。

まだ外が暗かった。

「動ける」高梨は言った。コートに外の空気をつけたまま、テーブルに書類を置いた。「昨夜、連絡が取れた。十五年前の彼が、今朝、古い貸しを返してくれた」

「警察庁広報の〇〇さんですか」

「そうだ。彼が内部で動いてくれた。差し止めの書類に不備を見つけてもらった。公式には一時的な処理の遅延という扱いだが」高梨はコートを脱いだ。「その隙に動く。正式な捜査令状が出る前に、別の名目でビルに入れる」

「名目は」陽菜が聞いた。

「消防法に基づく立ち入り調査だ。サーバーが大量に稼働しているビルは、発熱量と電力使用量の関係で、消防署が定期的に点検できる。その形を使う」

「消防署が」

「消防署の担当者に、俺の知人がいる。正規の点検という形で書類を作れる。非常時扱いではないが、立ち入りは合法だ」

陽菜はすでにパソコンを開いていた。

「書類の形式を教えてください。今すぐ作ります」

高梨が書類の要件を話し始めた。

陽菜の指が動いた。

蓮はその様子を見ながら、今日の動線を頭の中で組み立てていた。

午前九時、田辺商事の配送車が事務所の前に来た。

蓮と陽菜は荷物の整理スタッフの格好をして乗り込んだ。

「監視の車は」蓮は田辺に聞いた。

「今朝は二台です。昨日より一台減りました」

「情報が流出したことで、社内対応にリソースを割いていると思われます。監視の優先度が下がった」

「どこまで行きますか」

「〇〇区の〇〇ビルです」

田辺が車を出した。

蓮は窓の外を見た。

記録が走り続けていた。

通り過ぎる車。路地の形。監視カメラの位置。全部が頭に入っていった。

「緊張していますか」陽菜が小声で聞いた。

「記録が走っています」

「それが緊張している時の蓮さんの状態ですね」

「そうかもしれません」

陽菜は前を向いた。

「私も緊張しています」

「どんな感じですか」

「計算が、少し速くなっています。たぶん脳が余計なものを削って、今必要なことだけを処理しようとしているんだと思います」

「俺と同じ状態です」

陽菜は少し笑った。

「やっぱり、似た者同士ですね」

ビルは古かった。

七階建て。外壁が灰色。表に特定の会社名がなかった。

住所だけがある建物だった。

消防署の担当者と高梨が先に入っていた。

蓮と陽菜は荷物搬入の格好で、別のドアから入った。

内部は薄暗かった。

廊下が長かった。

「地下です」蓮は言った。「サーバーの熱量は上に逃げる。でも、排気ダクトの方向が地下から来ています」

「どこで確認したんですか」

「外から見えました。建物の北側に、排気口が低い位置にあります。通常は上に設けるものを、あえて地下から引いています」

陽菜は蓮の後ろについていった。

地下への階段を降りた。

古い扉があった。

「鍵は」陽菜が言った。

「必要ありません」蓮は扉の鍵穴を見た。「三年前の資料に、このビルの旧管理会社が出てきます。当時の設備仕様書に、地下室の鍵の型番がありました。汎用型です」

高梨の連絡係が来た。

マスターキーを持っていた。

扉が開いた。

サーバー室だった。

広かった。

天井が低かった。でも横に広い。

機器が並んでいた。

蓮は入った瞬間に、スキャンを開始した。

【スキャン開始:202X年〇月〇日 09:44】

サーバー、三十二台。

台数を数えた。

次に型番を確認した。

各機器のモデルナンバーが、小さなラベルで貼られていた。

全部を読んだ。

全部を記録した。

配線のパターン。電源の引き回し。冷却システムの構造。

天井についている排熱のダクト。

フロアの電力メーターの数値。

「この熱量は」蓮は言った。「継続的なデータ処理をしているものです。十八年分のデータが、今も稼働し続けている」

陽菜は部屋を見回した。

「これが全部、私たちのデータを含んでいる」

「含んでいます。今もこの部屋で処理されています」

陽菜はサーバーを見た。

何かを言おうとして、止めた。

蓮が記録を続けた。

何も見逃さなかった。

一台ずつ、全部。

【スキャン完了:09:47】

所要時間:三分。

記録内容:サーバー三十二台、型番全件、配線パターン、電力使用量の推定値、稼働年数推定。

証拠としての有効性:高。

「記録できました」蓮は言った。

高梨の連絡係が「撮影します」とカメラを出した。

「俺の記録を、物証で補完してください」

「わかりました」

カメラのシャッター音が、部屋に響いた。

外に出た。

田辺の車が待っていた。

乗り込んだ。

蓮はスマホを取り出した。

エドワードの番号を押した。

三コールで出た。

「篠原くん」エドワードの声は、今日も穏やかだった。「今日は何の用ですか」

「報告があります」

「どうぞ」

「あなたの隠しサーバーを、記録しました」

電話の向こうで、沈黙があった。

「〇〇区の〇〇ビル、地下一階。サーバー三十二台。型番は全件、頭の中に入っています。配線のパターンも、電力使用量の推定値も」

「……それは」

「今朝、合法的な立ち入り調査の名目で確認しました。写真もあります」蓮は続けた。「あなたは自分だけが知っていると思っていた。エドワードさん、あなたの予測にはなかったはずです。俺がここに来ることは」

電話の向こうで、何かの音がした。

椅子の動く音か、何かが動く音だった。

「十年前の覚書は、永瀬会長の手を離れています」蓮は続けた。「それを知らなかったのは、あなただけだった」

沈黙。

長い沈黙だった。

「……どこから」エドワードの声が変わった。穏やかさが、少し削れていた。「どこから、その情報が」

「俺の記憶の中に、全部あります」蓮は答えた。「三年前から」

また沈黙。

「今日の私は」エドワードは言った。「計算が外れました」

「はい」

「ただ」エドワードの声が戻ってきた。「一度の誤算は、敗北ではない」

「知っています」蓮は答えた。「だから続けます。十八日、まだあります」

電話を切った。

【記録:202X年〇月〇日 10:02】

エドワード、動揺確認。声のトーン変化:検知。

サーバー証拠、固定完了。

カウントダウン:18日。

田辺が「どうでしたか」と前から聞いた。

「計画通りです」蓮は答えた。

陽菜は蓮の横顔を見た。

電話中、一度も声が揺れなかった。

「蓮さん」

「はい」

「かっこいいですね」

蓮は少し間を置いた。

「そういう分類は、初めて入りました」

「記録しておいてください」

「しました」

車が走り続けた。

【記録:10:03】

陽菜の発言:「かっこいい」。

分類:新規。

優先度:高め。


第64話 了 


この作品が少しでも気になったら、★評価とブックマークをいただけると励みになります。次回更新の力になります。引き続きよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ