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【完結済】「俺だけが全部覚えている~三年分の搾取を、事実だけで清算する~」  作者: 志喜  陽斗
第五章「清算と反撃の三週間」

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第63話「影の接触、あるいは二十一日の共犯者」

朝、高梨からメッセージが来た。

短かった。

「上からの差し止めが入った。令状の審査が止まっている。外からの圧力の可能性がある。対応を検討中」

蓮はそれを読んだ。

予測していた。

エドワードが「力」と言った時、司法への干渉は想定の範囲内だった。

でも、高梨に残された時間が削られていく。

蓮は高梨に電話した。

「高梨さん、一つだけ確認させてください」

「なんだ」

「十五年前の〇〇事件、あなたが担当していた案件です。その時、容疑者の証人として保護した若者がいます。証言が採用されて、案件が解決した」

「……覚えている。なぜ」

「その人物は今、警察庁の広報部にいます。名前は〇〇さん。三年前の組織図に名前がありました。高梨さんの判断で守られた人間が、今は別の立場にいる」

電話の向こうで、高梨が少し間を置いた。

「それは」

「彼に連絡できますか。直接の外圧を迂回して、情報を適切な場所に届けるルートが取れるかもしれません。高梨さんが助けた人間が、今日高梨さんを助ける」

「……篠原くん、お前は本当に」

「覚えているだけです」

「恐ろしいな」高梨は言った。「いい意味で。連絡してみる」

電話が切れた。

陽菜が横で聞いていた。

「十五年前の証人まで覚えているんですか」

「組織図に名前がありました。点が繋がりました」

陽菜は少し間を置いた。

「あなたの記憶は、味方を探すためにも使えるんですね」

「敵を探すためだけに使ってきましたが」蓮は答えた。「今は、味方を探せます」

昼前、桐島が電話を始めた。

一本目、二本目、三本目。

電話をしながら歩き回っていた。

声が低かった。内容は聞こえなかった。

四本目の電話が終わった時、桐島がテーブルに戻ってきた。

「オムニ・データの国内資金源、三本のうち二本を止めた」桐島は言った。

蓮が顔を上げた。

「どうやって」

「コンサル時代の知人と、昔のライバルを動かした。オムニ・データに資金を入れていた投資ファンドの一つに、俺の知人が役員として入っている。そいつを経由して、今回の件の不透明さを投資家に伝えた。リスク案件として、出資の見直しが始まった」

陽菜が「それだけで動くんですか」と言った。

「金は嘘をつかない」桐島は椅子に座った。「投資家は利益のために動く。リスクが見えたら逃げる。俺が電話一本で何百億かを動かせるわけじゃない。でも、疑心暗鬼を植え付けることならできる」

「桐島さん」蓮は言った。

「なんだ」

「俺が『点』で戦っているなら、桐島さんは『面』で戦っている」

桐島は少し笑った。

「お前に言われると照れるな」桐島は言った。「ただの電話だ。昔の縁を使っただけだ」

「昔の縁を覚えていたから、使えた」

桐島は少し間を置いた。

「……お前の影響か、最近俺も記録を大事にするようになってきた」

陽菜が小さく笑った。

夜、ドアがノックされた。

田辺商事の経由だった。

暗号化デバイスで事前に「会いたい人間がいる」と連絡が来ていた。

蓮は「通してください」と答えていた。

入ってきたのは、六十代の女性だった。

地味なコートを着ていた。目が鋭かった。

「初めまして。佐々木と申します」女性は言った。「永瀬会長の前秘書をしていました」

蓮は記憶を走らせた。

【照合:永瀬修三・秘書歴代リスト。帝都物産の役員資料より。佐々木〇〇、現在六十二歳。永瀬の秘書を十八年務めた後、三年前に退職。退職理由、記録なし】

「どうぞ」蓮は言った。

佐々木は座った。

「単刀直入に話します」佐々木は言った。「エドワード・チェンに関する情報を持っています。永瀬会長が現役の頃から、オムニ・データとの接点を私は傍で見ていました。その中で、エドワード本人も把握していない場所に、オムニ・データの隠しサーバーがあります」

部屋が静かになった。

「なぜそれを知っているんですか」陽菜が言った。

「十年前、永瀬会長とエドワードが初めて取引した際の書類整理を私がしました。その時、サーバーの所在地が書かれた覚書を見ました。エドワードは毎回、自分の手元に残さない書類がある。代わりに、信頼できると思っていた人間に預けていた」

「永瀬会長に」

「はい。でも会長が逮捕されました。その書類は、まだあの場所にあるはずです」

「なぜ今まで」蓮は言った。

佐々木は少し間を置いた。

「私は十八年、永瀬会長に仕えました。会社の不正を知っていました。でも動けなかった。あの頃の私には、立つ場所がなかった」佐々木は続けた。「あなたが帝都物産を壊した。永瀬会長が裁かれた。それを見て、初めて動けると思いました」

「今、動く理由は」

「エドワードに切り捨てられた人間が、他にもいます」佐々木は蓮を見た。「篠原さん。あんたの記憶力は地獄のようだと聞いています。でも、あの男を止めるためなら、その地獄に乗りたい」

蓮は佐々木を見た。

「サーバーの所在地を教えてもらえますか」

「条件があります」

「なんですか」

「私が見た書類、あなたは覚えていますか。三年前の帝都物産の資料の中に」

蓮は少し考えた。

「佐々木という名前が出てくる書類が一通あります。永瀬会長の個人支出の明細です。贈り物として処理されている項目の中に」

佐々木が少し目を細めた。

「それが、私への口止め料です」佐々木は言った。「永瀬が逮捕された今、その記録は私にとって不利です。裁判で使われれば、私の立場が危うくなる」

「つまり」

「その記録を、今回の件の証拠として使わないでほしい。それが条件です」

部屋が静かになった。

蓮は少し考えた。

「その記録は、今回のオムニ・データの件と直接関係ありません」蓮は答えた。「使う必要がない記録は、使いません」

「約束できますか」

「俺の記憶に、例外はありません。でも、使う必要のない記録を使ったことも、一度もありません」

佐々木はしばらく蓮を見た。

「……信じます」

佐々木はコートのポケットから、折りたたんだ紙を出した。

「サーバーの所在地です。建物の正確な住所と、フロアの番号があります。当時の覚書のままです。移動していなければ、今もあるはずです」

蓮は紙を受け取った。

読んだ。

【記録:所在地、照合開始】

三年前の資料に、その住所が出てきた場所があった。

帝都物産の不動産関連資料。一行だけ出てきた住所。当時は意味がわからなかった。

今、意味がわかった。

「一致します」蓮は言った。「この住所は、三年前の資料にも出てきています。当時は用途不明でした。今、繋がりました」

佐々木は立ち上がった。

「私にできることは、これだけです」

「十分です。ありがとうございます」

佐々木が出ていった。

ドアが閉まった。

事務所に四人が残った。

蓮はホワイトボードに書いた。

サーバーの住所。

それから「19」という数字。

カウントダウンが、二日進んでいた。

「次の手が決まりました」蓮は言った。

「サーバーを押さえる」高梨が答えた。電話で繋いでいた。「令状の問題はあるが、佐々木さんの証言があれば動ける可能性がある」

「動ける日数は」

「十七日で計算してください。最初の二日は準備に使う」

「わかりました」

電話が切れた。

陽菜がホワイトボードの「19」を見た。

「十九日で、終わりますか」

蓮はホワイトボードを見た。

今日一日で、協力者が増えた。

高梨の人脈。桐島の資金ルート。田辺商事の情報網。佐々木の証言。

全部が、繋がっていた。

「二十一日は」蓮は静かに言った。「壊すのには、十分な時間だ」

笑顔ではなかった。

でも、口元が少し動いた。

冷徹で、確かな動きだった。

陽菜がそれを見た。

「今、少し笑いましたか」

「笑いましたか」

「笑いました」陽菜は言った。「初めて見た、その顔」

蓮は少し間を置いた。

【記録:202X年〇月〇日 23:41】

協力者リスト更新。高梨・桐島・田辺・佐々木。

サーバー所在地、確定。

カウントダウン:19日。

「明日から、加速します」蓮は言った。


第63話 了 


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