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【完結済】「俺だけが全部覚えている~三年分の搾取を、事実だけで清算する~」  作者: 志喜  陽斗
第五章「清算と反撃の三週間」

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第61話「カウントダウン開始(すべてを出す決断)」

ホワイトボードに、数字が書いてあった。

「21」

大きく、黒のマーカーで。

高梨が書いた。

「俺が動ける日数だ」高梨はマーカーを置いた。「二十一日後、俺は東京にいない。その前に、全部固めなければならない」

蓮はホワイトボードを見た。

三年前、同じホワイトボードに敵の名前を書いた。

今日は、数字だけがある。

「これが手土産だ」高梨はファイルをテーブルに置いた。「オムニ・データが関与する不適切なデータ取引のリストだ。断片的なものだが、これと篠原くんの記憶を組み合わせれば」

「全部繋がります」蓮はファイルを見た。「一分ください」

「どうぞ」

蓮はファイルを開いた。

読んだ。

一枚目、二枚目、三枚目。

全部読んだ。

一分かからなかった。

【照合開始:高梨資料×三年前の記録×55〜58話での観察データ】

一致点が連鎖した。

十八年前の契約書の附則。削除期限を過ぎたデータの不正保持。複数企業への転売の痕跡。政府関連機関への不正なデータ提供。

全部、繋がった。

「全部、俺の記録にあります」蓮は顔を上げた。「書類化できます」

高梨は蓮を見た。

「どのくらいかかる」

「二十一日で足ります」

高梨は少し笑った。

肩を叩いた。

「篠原くん」高梨は言った。「君の脳がパンクするのが先か、彼らの牙城が崩れるのが先か。賭けをしよう」

「どちらに賭けますか」

「君に決まっている」高梨は椅子に座った。「君が三年間、全部覚えてきたなら、あと二十一日くらいは平気だ」

陽菜がコーヒーを持ってきた。

「どこから始めますか」

蓮はホワイトボードを見た。

「十八年前から、今日までを、時系列で書き出します」

桐島が腕を組んだ。「俺の仕事は」

「ハンコです」蓮は答えた。「法的に有効な書類を大量に作ります。全部に桐島さんの名義が必要になります」

「わかった、全部つく」

「中村さんには」

「休んでもらいます」陽菜が言った。「今日から二十一日間、この事務所で起きることは、最小限の人数で動きます」

四人が、テーブルを囲んだ。

二十一日のカウントダウンが、始まった。

夜になった。

蓮が話した。

陽菜が打った。

桐島が確認した。

「十八年前の管理委託契約、附則第四条」蓮は言った。「契約終了後、三年以内に全データを削除する義務が甲に生じる。契約終了は〇〇年〇月。削除期限は〇〇年〇月。現在は〇〇年〇月。削除期限超過、十二年」

陽菜の指が動いた。

「民法の不当利得返還請求と、個人情報保護法第二十三条の違反として構成します。加えて、転売が確認された場合は不正競争防止法」

「転売の証拠は」蓮は続けた。「三年前の帝都物産の資料の中に、データ提供元として瀬川商事の名が出てくる箇所があります。帝都物産が取引していた情報の一部が、オムニ・データ経由で流れていた可能性があります」

「それは」高梨が言った。「帝都物産とオムニ・データの接点になる」

「はい。永瀬の裁判記録と照合すれば、裏が取れます」

陽菜が入力する速度が上がった。

蓮が話す速度に、完全に合わせていた。

蓮の記憶が言葉になり、陽菜の計算が書類になり、桐島の名義が効力を持つ。

三人の処理が、一つの流れになっていた。

【記録:同期率、上昇中】

蓮の頭の中で、そういう表現が浮かんだ。

機械的な表現だったが、今夜はそれが正確だった。

「次」蓮は言った。「〇〇年〇月、オムニ・データ前身企業が政府関連機関に提供したとされるデータパッケージ。高梨さんの資料の三ページ目に断片があります。俺の記憶では、帝都物産の役員会議録の中に同時期の記述があります。一致します」

「一致率は」高梨が聞いた。

「九十四パーセント。残りは推定ですが、推定の根拠は三点あります」

「全部話して」

蓮は話した。

陽菜は打ち続けた。

時計が深夜に向かっていた。

深夜一時を過ぎた頃。

事務所の電気が消えた。

一秒。

バックアップ電源が入った。

照明が、非常灯の色になった。

誰も動かなかった。

「停電か」桐島が言った。

「違います」蓮は答えた。「外からの介入です。主回線を一時的に遮断した。外部からの電気系統への干渉です」

「サイバー攻撃か」高梨が言った。

「電気系統と、おそらく同時にサーバーにも」蓮はパソコンの画面を見た。「陽菜さん、データはクラウドに同期済みですか」

「三十分前に全部上げました」陽菜は答えた。「ローカルを消しても、クラウドは別のアクセスキーが必要です。エドワードには渡していません」

「よかった」

桐島がスマホを取り出した。「電力会社に連絡する。外部からの干渉記録を残してもらう。これ自体が証拠になる」

「お願いします」

部屋が、非常灯の薄い光だけになった。

蓮は窓の外を見た。

通りの向こうに、車が一台止まっていた。

エンジンが切れていた。でもライトが微かに灯っていた。

監視の車だった。

「……始まりましたね」蓮は言った。

「今すぐ来ていたんですね」陽菜が言った。「三週間待つと言っておきながら」

「待つつもりはなかったんでしょう。揺さぶりながら、法的な準備が整う前に潰しに来ている」

高梨が立ち上がった。「今夜は、俺が外に出ます。捜査官の資格がある間は、抑止力になります」

「お願いします」

高梨がコートを着た。

ドアを開ける前に振り返った。

「二十一日、縮まったかもしれないな」高梨は言った。「だが、君たちなら短い時間の方が強い。覚えている量が、時間に勝る」

ドアが閉まった。

事務所に、蓮と陽菜と桐島が残った。

非常灯の下、陽菜がパソコンの前に座り直した。

「続けましょう」陽菜は言った。

「いいんですか」蓮は言った。「今夜は一度止めても」

「止めません」陽菜はキーボードに手を置いた。「今度は、記録を消させない」

その言葉と同時に、陽菜の手が蓮の手に触れた。

一瞬だった。

でも、確かに触れた。

それからキーボードに向かった。

蓮も、ノートに向かった。

窓の外、車のライトが灯り続けていた。

でも事務所の中では、記録が続いていた。

止まらなかった。

【記録:202X年〇月〇日 01:14】

残り:20日と22時間46分。

進捗:全体の約八パーセント。

妨害:開始。

対応:継続。

数字が、動いていた。


第61話 了


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