豪華な晩餐 後半
「ほら、もっと食べろ」
「遠慮はしなくていいぞ。まだあるからな」
茶色になった肉が、僕とイザナミの目の前に積みあがっていく。
おもだるは肉塊を小さく切る片手間に、机の上の焼かれた肉を食べていく。
オオトノ男神は薄い肉や小さな肉片を桶からとって鉄板に乗せては、全員に同量になるように配っていく。
二柱の前には肉はあまり残っていない。
オオトノ男神が配るたびに、同じ量だけ食べていくからだ。
それに比べると僕とイザナミの前は……だんだんと増えている。
他にやることはない。
だが、最初に比べると肉の焼ける速さが上がり、僕たちの食べる速さは下がっている。
これも……修業なんだろうか。
増えていく薄い肉や肉片に枝を刺しては、口の中に入れていく。
「あと、どのくらい残っているのでしょう?」
「……そうだな。あと少しといったところか」
「酒があれば、もっと楽しめるんだがな」
「それは後にしてくれ。どうせ明日から探し始めるんだろうからな」
「まあ、そうだろうけどさ……。俺が飲む分には良くないか?」
「駄目だろう」
「そうか……」
オオトノ男神が目に見えて肩を落とす。
鮭が欲しかったのだろうか、次の機会では用意しておこう。
確か、川のあたりにいたはずだ。
「喋ってないで食え。今のうちに活力をつけておくんだ」
「神には関係ないけどな」
「気の持ちようだ。三日で探し出すつもりなんだろう?なら一日の成果も貴重になる」
「ここまで短い日数は初めてだ。三日、三日かあ。出来なくはないが、一手の間違いが仇となる期日だ」
二柱の会話で意識が肉の山から話の方へ向けられる。
まだオオトノ男神に供えてはいないが、受ける前提の流れだ。
先に話を通してからの行為とは言え、向き合っていると分かるのは力が抜ける。
明日から探し始める。
そのためにも今日中に儀式を終えないといけないな。
「そういや、あの鳥はどうした」
「熊が運ばれて時点で逃げてった」
「鳥は……そうか肉は食べないな」
「あげるつもりだったのか?いや、食べる種類もいる。……あの鳥は果実派だが」
「それとも自分も捌かれるとでも思ったのか」
「……無いだろ」
その後も二柱は話し続けていた。
その間に僕とイザナミは肉を減らしていく。
「……さて、こんなものか」
「切れたか?」
「まだ残ってはいるが、後でも問題は無いだろ」
おもだるは桶に残った肉を一瞥した後に、上から布をかける。
それを持って小屋へと入っていった。
「じゃあ神棚の準備に入るか。とは言っても、もう出来てるのか?」
「はい。確か……あの辺りに」
「おお!見てきてもいいか?」
「初めてだったので、修正があれば教えてほしいです」
「気にしないさ。俺を想って作ってくれた時点で価値があるからな」
「価値がある、ですか」
オオトノ男神が立ち上がり、小屋から少し離れた場所に作った神棚へ向かっていく。
上から下、手前や奥までじっくりと見ているのが暗闇の中でもかすかに見える。
「価値がある。動きや仕掛けには意味が含まれるが、これには無いからな」
「神に願う場所という意味があるのでは」
「いや、それは違う。それで言ったら神は対面での話し合いの価値が無くなるだろ?」
「別天津神のことでしょうか?」
「ああ。あの5柱と違って、神世七代には明確な個体差がある」
「そこはもう説明してある」
「お」
小屋の中からおもだるが出てきた。
その手には形が整えられた肉を乗せた平たい石がある。
「神は力の差が大きい。後に生まれた未熟な存在でも、先代の全てを超すことがあるってな」
「とても大雑把だな。間違ってもいないが」
「合っているんですか」
「とは言っても体感するのは難しいだろうな。本神にとっては当たり前にできる事だったりすると尚更」
「いざなぎといざなみなら……前にも言ったが探すのは得意だ。試したことは無いが、もしかしたら」
「いいじゃないか、大まかにでも判明しているなら。ほら俺への儀式をするんだろう?」
「……準備を始めるか」
おもだるは神棚に肉と水を用意を進める。
オオトノ男神は壁に寄りかかりながらその様子を見ている。
イザナミは僕の用意した葉を一枚ずつ眺めている。
「どうだ。それでいいだろうか」
「たぶん?綺麗です」
「綺麗は、関係あるのだろうか」
「さあ……?」
一先ずイザナミの隣にしゃがみ手元の葉を見る。
時間が経っているため数枚は破れている。
イザナミはそれらを地面へ戻しながら残った物を僕に見せる。
「このあたりならどう?」
「良い、と思う」
「うーん……」
「俺はどれでもいいぞ」
「……良いらしい」
「そうですか?」
オオトノ男神の一言を聞いてイザナミは更に僕に葉を見せてくる。
その中で二枚を選ぶと二柱の顔がほころぶ。
「あっちの用意も終わったようだし、さっそく儀式だな」
「水の用意が無いですが」
「まあまあ。そんなことを気にしていたら明日に間に合わないからな。それに俺が気にしない」
「イザナギ、いいじゃないですか。男神がこう言っているんだから」
「そうか……そうだな」
イザナミが葉を神棚に添える。
前回に比べるとわずかに周囲の気配が変わったようにも感じられた。
だが、オオトノ男神の神力が増したのは確実だ。
「おお。いいな、これ。こんな感じなのか」
「初めてだったのかよ」
「そりゃあそうだろ。俺なんてあそこに行けば声を掛けられるし、俺だと出来ることが限られるからな」
「ああ……確かにな。女神の方が出番は多い」
「言い方。あと俺の前でよく言えるな」
二柱の言葉を背に僕とイザナミは神棚に手を合わせる。
「三日間」
「調査に専念できるように力を貸してください」
「意富斗能地神」




