豪華な晩餐 前半
今のはおもだるの声だ。
オオトノ男神は顔だけを外に向ける。
「どうした。準備が終わったのか?」
「そうだよ。はやく来ーい」
オオトノ男神が外へ出て行く。
イザナミは一度僕に視線を向けてから、その後へ続いていく。
外に出ると、先ほどは無かったものが置かれていた。
石を積んでできた机のような物、それを囲うように上部の平らな原木が4つ。
そのうちの1つにおもだるが座って、何やら作業をしている。
「出てきたか。その肉は俺の傍に置いておけ。後はやっとく」
「焼くのはやるのか。相変わらず君は線引きが分かりづらい」
「……なんでもいいだろ。ただ、この二柱は火を扱うのが……見たことすらない。だからだ」
「えっ、見たことも無いって。どんだけ自然の中だけで生活させてたんだ」
「別に、いいだろ。生きてるんだから」
「その線引きは変わらないな」
オオトノ男神が原木に座る。
おもだると話ながらも、視線は僕たちへ向けており残り2つの原木へ促してきた。
二柱に倣って、僕はオオトノ男神に近い原木に座る。
イザナミはおもだるの傍に桶を置いた後、残った場所に座る。
「よし、火をつけるぞ」
「ついでに教えたらどうだ?」
「……そうだな」
おもだるが持っていた物を見せる。
それは黒に近い色をした、手に収まる大きさの石。
両手に1個ずつ持っている。
「日、ですか」
「……いや、空のあれではなく。炎の方だ」
「それを使うんですか?」
「そうだ。まあ、見てろ」
そう言っておもだるは身を屈め、机の下を見る。
追うようにおもだるの手元へ視線を向けると、机の下に木くずが盛られていることに気づいた。
風で散っていた分を中心へ寄せてから、石同士をぶつける。
間で明るい粉が舞う。しかし、何の変化もない。
数回、軽い音を鳴らし、一拍おく。
今までで一番高く大きな音が鳴った時、おもだるの手元が強く輝いて木くずの一部が段々と黒くなっていった。
「できたか」
「今ので……ついたんですか」
「ああ。あとは火が絶えないように風や木材を調整する」
おもだるは木くずの位置を調整しながら、横に置いていた小さめの木材を近づける。
黒い部分は広がっていき、僕の方にも回ってくる。
よく見ると、所々が赤い。
暫くその様子を眺めていると小さな音が聞こえ始める。
小枝を踏んだ時のような軽さに、川のせせらぎのような数。
その間にも木材まで黒くなっていく。
ただ木材の方では赤い揺らぎが纏っていた。
上へ向かうように揺らめいているそれは、横へ大きくなっていき積まれていた石に触れる。
「触るなよ。熱い……危ないからな」
「怪我するってことだ」
「分かりました」
少しだけ身を引く。
その間も机の下では音が鳴り、周りを照らしている。
「これが火なんですね?」
「今使ったのは、火打ち石。打ち合わせたのは火打ち金」
「このための道具ですか」
「ああ。これ以外にもあるが、すぐに用意できるのがこれしかなかった」
「時間があれば木でもできるんだがな」
「今日じゃなければ用意できていた」
「……悪かったって。火おこしすら教えていないとは思わなかったんだ」
オオトノ男神が腕を伸ばし、机の少し上で静止する。
おもだるは再びあの刃物を取り出す。
桶の中に入れていた肉塊を薄く、あるいは小さく切っていく。
1個の肉塊が端から複数の肉片になっていくのを眺めていると、オオトノ男神が他よりも白い肉片を机に乗せる。
雪の景色で聞いたような、高く響く音が鳴った。
机上の肉片は誰も触れていないにも関わらず、ゆっくりと移動し、たまに跳ねる。
接触面から液体が広がり、机を濡らしていく。
オオトノ男神は動く肉片に、いつの間にか持っていた細い枝を刺し、机の表面を滑らせていく。
先ほどよりも音が大きくなり、机の表面が湿っていくのが見て分かる。
しかし肉片は小さくなっており、机の中心とその周辺を湿らせる頃には消えていた。
「これはな、脂をのせたんだ」
「あぶら、ですか」
「これを先にやっとくことで、肉が引っ付くのを大体は防げる」
オオトノ男神が僕とイザナミにも細い枝を差し出す。
手のひらを広げたくらいの大きさのそれは先端が少し尖っているが、元の強度が高いからか折れにくいように感じる。
おもだるが薄くした肉を机に並べていく。
先ほどよりも低い音が鳴るが、大きい。
赤い肉が縮んでいく。
音が大人しくなり、色がくすんできた時にオオトノ男神が枝を刺して肉をひっくり返す。
裏面は赤ではなく、茶に変わっていた。
「よし、いい感じだな」
「少し火力をあげるか?」
「いや、このままでいい」
下のはじける音と、上の縮む音が響いていく。




