第45話 合コンらしく
安全教育がおわったところで、私は参加者の前に立って説明した。
「みなさん、これから食堂に移動し昼食を摂ってもらいます。席はこちらで指定します。食堂入口に座席表がありますのでそれにしたがって着席してください。なお、セルフサービスですので、食事は各自運んでください」
昼食は学生6名ずつグループ分けして摂る。真の目的は合コンであるから男女比をそろえたいところだが、物理学校15名のうちに瑠夏ちゃんと明里ちゃんがいるからそうならない。とにかく男子を3+3+3+2+2にした。瑠夏ちゃんと明里ちゃんは男子2のところに一人ずつ混ぜる。我々引率(伊達先生・吉岡先生・新発田先生・修二くん・私)は各テーブルに一人ずつつく。
ついでに言っとくと、物理学校・扶桑女子大の各3人のグループメンバーは固定し、なにかあるごとにそのグループとグループの組み合わせを替えるというお見合いシステムにした。先日その組み合わせなどを菅野先生の部屋で修二くんと相談したのだが、途中で修二くんがぼそっと言った。
「杏、物理のセミナーの内容より、こっちの話のほうがよっぽど熱心だね」
「だってセミナーの内容は先生に丸投げじゃん。私達の貢献はここだけしかできないよ」
「そうだけどさ……」
すると菅野先生が話に割り込んできた。
「修二くん、聖女様は下々の幸せにも熱心なのだよ」
「なるほど、ですが杏は、日頃『合コンは始まるまでが合コン』とか言ってるんですよ」
「なにそれ」
私が説明した。
「それはですね、始まるまではどんな人がくるかな?とか、期待してるわけじゃないですか。ですけど、相手の顔を見た瞬間に高揚感がドバっと下がるという……」
「ひどいこと言うな、君は。でも君らは合コンで出会ったんだろ?」
「そうですけど」
「まあ君らは出会った瞬間に運命を感じたんじゃないの?」
修二くんが下を向いて顔を赤らめた。
「お、旦那さんの方はそのようだな、で、君は?」
そう言われて私も顔面の表面温度が急上昇するのがわかった。ただその原因は、泥酔して説教していたらしいとか、記憶がないとか、そういう自分の失態を思い出したからだということはとても言えなかった。
そんなことを思い出しながら私も自分の食事を取り、一つのテーブルに向かう。聞いた話だとつくばキャンパスの食事は質素だということだが、フルーツの小鉢がついている。他の人達が喜んでいるのを見ると、将来の職員確保のため菅野先生がリクエストしたものかと思われる。とにかくトレーには茨城県デフォルトの大盛りご飯、味噌汁、玉ねぎのサラダ、魚のフライが載っていた。
「失礼しまーす」
と声をかけながら着席すると、名札に山倉真央と書かれた女の子が、
「聖女様とご一緒できて光栄です」
などと言う。
「それ、誰から聞いたの?」
と聞くと、
「澤田先生ですけど、林先生とか伊達先生とかもいつも言ってますよ」
との答えだ。一緒にいる、村川いろはちゃん、笹川しおりちゃんもうなずいている。
「僕達も吉岡先生から聞いてますよ」
と言うのは上野聡太くん、水曜日の演習授業にも出ている学生だ。横にいる男子学生新庄裕太くん、降矢聖人くんも演習で見ている。扶桑勢も含め、全員3年生だ。バランスは理想的だ。
「まあとにかくいただきましょう、いただきま~す」
少し食べたところで真央ちゃんが話しかけてきた。
「あの、聖女様って、どうして物理にされたんですか? っていうか、聖女様って附属の出身ですよね。外部受験とか考えなかったんですか?」
「そうね、高校のときにね、高温超伝導体による磁気浮上見ちゃってね、それからとにかく超伝導やりたくて物理に来たのよ。でね、受験勉強するより大学レベルの勉強早く始めたくて、内部進学にしたの」
続けてしおりちゃんも聞いてくる。
「じゃあなんで院は札幌にしたんですか?」
「先生たちに説得された。扶桑に長くいすぎるから、外の空気吸ってこいって」
「へぇ、それでですね、」
「ちょっとまって」
私は話を遮った。
「あんたたち、ちょっと」
私はそう言って、両手でみんなを呼ぶような仕草をすると、全員顔を近づけてきた。私は小声で言う。
「あのさ、この合同セミナーの本当の目的、わかってんでしょうね」
みんな「あ」という顔をしている。
「私は人妻、みんなは独身、わかってるよね。人妻の話じゃなくて、相手の話聞きなさいよ」
上野くんはそれに対し、
「そうかもしれませんけど、とりあえず先輩の経験を聞きたくてですね……」
などと言う。
「わかるけど、あんたたち、夕食の席は別の女子だよ」
「え」
「当たり前でしょう、男女の組み合わせはどんどん変える。だからお互い情報はどんどんひきださないと。だから上野くん、自己紹介。出身地と、物理に来た理由とかね」
「は、はい。上野聡太です。出身はさいたま市で……」
やっと合コンらしくなってきた。




