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第44話 狩り場

 学会それにSHELの一般公開と忙しい秋がどんどん過ぎていき、やっと東海村の気温も下がってきた。カサドンのご実家にも伺い、おいしい梨をいただきお土産にたくさん落花生もいただいた。おいしいので宮崎研にもちこみ、吹き出物が出るまで食べてしまっている。しかしまだ冬を迎えるわけにはいかない。物理学校と扶桑女子大の合同セミナーがある。


 1日目はつくばキャンパスで行う。9時半につくば駅集合、乗合バスで10時くらいにはつくば市大穂のキャンパスにたどり着ける。川崎方面をちょっと早いが7時くらいに出れば十分に間に合う。

 午前中はまず参加者全員の自己紹介、そのあと放射線区域に立ち入るための安全教育を行う。そのあと職員食堂で昼食、休憩後はセミナーと見学である。最初は電子ー陽電子シンクロトロン、次に放射光施設である。夕食と言う名のコンパを職員食堂で行い、食後はさすがに男女分かれて宿泊施設に移動、男女別コンパは自由である。

 2日目は東海キャンパスで、朝食をとったら東海村の原子力の研究所の予算でチャーターしたバスが迎えに来る。人の確保のためと言う名目で小河先生がとってくれた。常磐道経由で移動、東海キャンパス内の移動もこのバスで行う。原子炉もあるのでセキュリティー確保のためである。

 午前中は陽子シンクロトロンの見学と原子核関連のセミナー、午後は中性子散乱実験を行う原子炉など物質・生命系である。そして夕方に東海駅までバスで送り届けて解散と、かなりヘヴィーな予定になってしまった。


 その日の朝10時前、私と修二くんはつくばキャンパス正門前でバスを待っていた。バス停の後ろは植え込みがしっかりしていて冬場は季節風を防いでくれるのだろうが、今は午前の陽光が私達を容赦なく炙っている。

「暑いね」

 珍しく修二くんがこぼす。

「うん、睡眠不足にこの日差しはきついね。日焼けしそう」

「帽子取ってくれば?」

「あとちょっとでバス来るんじゃない」

「そっか」


 私達は今朝東海村から新発田先生をピックアップしてつくばにやってきた。3人だから私の車で移動してきた。受け入れ側であるので9時前につくば入りし、事務手続きやらなんやらバタバタであった。お話してもらう先生、実験室内を案内してくれる先生とのうちあわせも含め、到着から1時間もしないで全部やるのは大変だった。極力昨日までにネット会議でやっておいたからよかったものの、普通なら前泊しないと無理だろう。

 結局のところSHEL側がやる気満々で昨日までに会場とかつくっておいてくれ、感謝しかない。つくば側で動いていただいた大川先生は今、新発田先生と展示室で歓談中である。


 遠くにバスが見えた。

「修二くん、来た」

「うん、来たね」


 バスから先頭を切って降りてきたのは伊達先生だった。物理学校の引率が磁性理論の大家吉岡先生なので扶桑女子大としては対抗上、磁性実験の大家伊達先生を出すと澤田先生はいきまいていたのだ。そのお二人が日本の素粒子実験の総本山に降り立つのであるから、私は今、すごいものを目の前にしているのかもしれない。そしてその後ろからぞろぞろと30名の学生たちが降りてきた。両校それぞれ15名ずつであるが、物理学校から瑠夏ちゃんと明里ちゃんがきているので女子のほうが多い。バランスが悪いとも言えるが、SHEL側としては喜ぶはずだ。


 私が先頭、修二くんが最後尾(一般公開のときと同じ)でぞろぞろと移動する。ついでに言っとくと、案内係であることがわかりやすいようにふたりでお揃いの黒の作業着を着ている。札幌で修二くんに作業着をプレゼントしたとき、勢いで自分用も買ってしまった。理論の私は家で着るしかなかったのだが(修二くんが着用している写真をみながらニヤけていたのは秘密)今こうして役に立った。唯一の欠点は太陽からの赤外線の吸収率が高く、先程は暑くてこまったことだ。しかし室内にもどればもう大丈夫だ。


 セミナールームで開会式である。挨拶はSHEL所長の菅野先生だ。菅野先生にひきつづき伊達先生、吉岡先生も簡単に挨拶する。日本の素粒子の理論・実験、強磁場実験、磁性理論の

トップ3が一堂に会するどえらいことになっている。私は修二くんのところに行って、

「すごい絵だね。眼福眼福」

と言ったら、

「そんな表現するの、杏くらいかもよ」

と小声で返された。不満である。物理界の大聖女様の配偶者として自覚が足りない。


 挨拶のあと参加者全員による簡単な自己紹介、続いて安全教育に移る。本セミナーの本来の目的は合コンであるのだが、あまり大っぴらにできない。とにかく真面目に受けてもらわないといけないのだが、受講者の心情は計り知れない。私としてはこのあとの昼食で頑張ってほしいと思う。


 なお菅野先生はこの2日間、全行程に同行する予定だ。私はつい「おいそがしいのに」と言ってしまったら「スカウトは最優先の仕事だから」と即答された。つまりこの合同セミナーは、男子は女子を、女子は男子を、SHELは未来の人員を確保するための狩り場となっているわけだ。

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