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第26話 札幌の朝

 目を覚ますと、見慣れた部屋だった。トイレに行こうと体を起こすとのぞみと玲子ちゃんが横に寝ていた。ここでやっと自宅で飲んでいたのではなく、玲子ちゃんに譲ったかつての自室で女子会をやっていたことを思い出した。


 ルドルフがいない。トイレへ行きたい感覚を我慢してルドルフを探す。たいして広い部屋でもないのにどこにもいない。ルドルフはどこへ行ってしまったのだろうか。

 あせるが我慢が限界に達し用を足す。トイレから出てもう一度、部屋中探す。ドアも鍵がかかっている。ルドルフは魔力を使って外に出ていったのだろうか。


 心臓が痛いほど鼓動が速くなり、のぞみをゆすり起こす。

「のぞみ、起きて、起きて、たいへんなの」

「ん、んん?」

「ルドルフが、ルドルフが」

「ルドルフがどうしたの?」

「いないの」

「いない?、ああ今、明くんと修二くんとうちにいるはずだよ」

「そうなの?」

 私はスマホを探し、修二くんに連絡しようとした。

「何あせってんのよ」

 のぞみが呑気な声を出す。

「だって心配なんだもん」

「だいじょうぶだって」

 とにかく電話したら、8コール位で修二くんがやっと出た。

「杏、おはよ。どしたの?」

「ルドルフは?」

「ん? 横で寝てるけど」

「よかった」

「どうしたの?」

「いや、ルドルフがいなくなっちゃったかと思って」

「そんなわけないだろう。安心しなよ。横で寝てるよ」

「わかった」

「それより今日どうすんの?」

「あ、まあ予定通りでいいかな」

 予定としては、今日は大学に顔を出すことにしていた。お盆休みだからろくに人はいないのはわかっているが。

「どうする、一回こっち来る? それとも現地集合?」

「現地集合でいいんじゃない? あ、カフェがいいか。10時とか?」

「OK。10時カフェね」

 電話を切って時計を見るとまだ6時半だった。


 のぞみが起きてきて、紅茶を淹れてくれた。

「ありがと」

「ん」

「その感じだと、のぞみ結構ここ来てるみたいね」

「そうね、明くんとケンカしたときとか?」

「ふ~ん、するんだ」

「するよ、聖女様は?」

「うちはしない、ていうかならない」

「あ~そういうことか」

「どういうことよ」

「どうせあんたが嫉妬して、だけど修二くんがなんとか丸め込んじゃうんでしょ」

「うん、そう。よくわかるね」

「何年あんたの友達やってると思ってんのよ」

「ハハハ」


「おはようございま~す。先輩たち、早いですね」

「おはよう」

「おはよう玲子ちゃん、聞いてよ、聖女様ったらさ……」

 のぞみは私がルドルフがいなくなったと動揺していた話をした。

 それを聞いた玲子ちゃんの反応は薄かった。

「はあ」

「何よ、私は親として真剣に心配したんだからね」

「はあ」

「どういうこと?」

「あの、なんでルドルフくんがここにいないかわかってますか?」

「はい?」

「聖女様が延々、ルドルフくんに数学教えてたんですよ、数学」

「へ?」

「なんか三角関数の公式、全部証明させてましたよ。加法定理とか」

「はあ」

「あんまりいつまでも数学やってるので、のぞみ先輩が明先輩と修二先輩呼んで、連れてってもらったんですよ」

「そう」

「そしたら聖女様荒れて、さらに飲んでましたよ」

「ハハハハハ」

 笑ったのはのぞみである。のぞみは続けて、

「玲子ちゃん、いいこと教えてあげようか」

と言う。

「聖女様はね、修二くんと出会った合コンでさ、物理の素晴らしさを力説っていうか説教してたんだよ」

「記憶にない!」

「そう、その本人が記憶にないんだよ。ははは」

 しょうがないので反論する。

「なによ、そのおかげで明くんだって物理にきたんじゃない。感謝しなよ」

「してるしてる、ハハハハ。でも記憶ないんだよね、ハハハハハ」

 のぞみの笑い声が二日酔いの頭に響く。

「絶対感謝してないよ、ね、玲子ちゃん」

「はは、でも私わかりました。女子会は真美先輩がいるとエロ、いないと物理になっちゃうんですね」

「ああ、かもね」

 なんか朝から力が抜けた。


 軽い朝食を取ってシャワーを借りる。玲子ちゃんの使っているシャンプーは私のとちがうがいい香りである。今度これにしようかと思った。のんびりと片付けをしたり支度をしたりしていると9時半になった。少し早いが出かけることにする。

「私も行っていいですか?」

 玲子ちゃんが言うが拒否する理由はない。むしろルドルフの相手をお願いしておけば私は修二くんにベタベタできる。

 のぞみがすっと横に来て、

「玲子ちゃんを利用しちゃだめよ」

と言った。いつもながら思考がバレていて笑うしかない。


 札幌の道は南北、東西の道が直交して碁盤のようになっている。

「玲子ちゃん、道っていつも決まってるの?」

「いえ、その時々で変えてますね」

「あのさ、こういう碁盤の目状の道ってどう行っても距離変わんないでしょ。私ね、小学校のころからね、縦横縦横って碁盤の目が細かくなっていっても距離変わんないでしょ。それが無限に細かくなったらいきなり距離が短くなるのが不思議でね」

「はあ」

 玲子ちゃんは理系でありながら無限小の問題に対して関心を示さなかった。そして少ししてコメントした。

「私、わかりました。聖女様って、子供の頃からなんにも変わってないんですね。だからお酒のんでも物理の話するし、ルドルフくんに数学教えちゃうんですね」

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