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携帯型

 俺たちはダイニングや自室や、プロメの研究ラボで時間を潰した。


 プロメはあまりダイニングには上がってこなかった。ずっとラボで忙しそうに何かの作業をしていた。


 ある時、プロメのラボの片隅にあるリビング風空間のソファーでみんなでテレビを見ていると、プロメが長四角の黒い物を持ってきた。

 モコソでそれを見ると、表面にオレンジの枠が表示されていた。


「それは何だ?」

「新作です」


 プロメはその黒い四角いのを、2つのソファーの真ん中にある低いテーブルの上に置いた。

 長方形の黒いそれは、折りたためる木でできた将棋盤のような大きさで、けっこう大きかった。

 プロメはそれを立ててテーブルに置いた。


「携帯型ボロンです」

「ボロン?」


 確かにオレンジの枠はボロンでよく見る枠と同じ表示だった。


「ボロンって、後ろの隠れている部分がでっかくて重いって誰かに聞いた気がするんだが」

「通常はそうです。それにスカッシウムと繋がっていなければいけません」

「電気もすごい使うんじゃなかったっけ?」

「ですので、少ししか作れません」

「それで、どうやって使うんだ?」

「少し危険なので近づかないでくださいね」


 プロメはその黒い将棋盤を折りたたんだようなそれを、パカッと開いた。黒いのは正方形になって机の上に開かれた状態になった。


 開かれたその表面は真っ黒い膜みたいなのがヌルっと光っている。外側はプラスチックみたいなのに、内側は何か不気味な光沢だった。


「絶対に触らないでくださいね」プロメは手で俺たちを制止した。


「ここに元素があります」


 プロメはポケットがいっぱい付いた上着を着ていた。その上着のポケットからゴロゴロとアルミ缶やスチール缶や色とりどりの石を何個も取り出した。


「元素なのか?」

「そしてこれを、ここに入れます」


 プロメは石をひとつ取り上げ、黒い膜の上に落とした。すると石は、まるで底なし沼に沈むようにゆっくりと黒い膜に吸い込まれていった。

「主要な物質構成元素を入れていきます」

 プロメは次々と石や缶をそこに落としていった。


「この面に手を触れると手が無くなりますので注意してくださいね」

「マジか」

「本当です」プロメが真剣に言った。「そして、これで閉めます」

 プロメは慎重に、開いた将棋盤みたいな黒いのを閉めた。


「入れた元素の分だけ重くなりました」


 俺はその将棋盤を恐る恐る持ち上げてみた。ずっしりと重かった。


「トミサワさんのモコソにデータが入っている物を作ってみてください。なるべく小さくて軽いものです」


 昔、「俺のバッグ」と言ってリュックを作ったのを思い出した。

 俺は今でもその時に作ったリュックに自分の物を入れて持ち歩いている。リュックの中にはその時に作った小さいカメラも入っている。

 旅をしながら何枚も写真を撮ったが、まったく整理していないのでデータがもう一杯だしバッテリーも無い。


 俺はモコソのデータからカメラを選び、作成を選んだ。


ビビビー、黒いのから音が鳴った。


「何を作ろうとしました?」

「カメラ」

「重いですか?」

「少しずっしりするかな」

「もう少し軽い物でお願いします」


 俺はリストから財布を選んだ。中身が軽いとかそういう意味ではない。断じてない。


 四角い黒いのの表面からゴロンと俺の財布が吐き出された。


「自分の財布を久しぶりに見たな。なんか財布を落として警察に届けられたのが戻ってきた感じがする。落としてないけど」


「なるほど。日本のお金を見てもいいですか?」


 俺は財布の中から札を取り出して机の上に置いた。万札が3枚と千円札が3枚入っていた。俺にしては入っているほうだ。

 みんなは珍しそうに日本の札を見ていた。


「ではこれを、フラッシウムでスキャンします」

 プロメは6枚の札をキレイにテーブルの上に並べ、黒い長方形のを両手で持ち、大きなカメラを構えるみたいにテーブルに向かって構えた。


パシュ!少し大きめな音がした。


「対象を保存します」プロメは空中で何かの操作をした。


「そして作成します」プロメが言うと、ボロンから3万3千円がヒラヒラと落ちた。


「おいおい、大金持ちだな」俺は少し興奮して言った。


「これは地球では犯罪です」

「そうだったな」

「この紙には番号が印刷されています」

「そうだった」

「同じ番号しか出せませんので、バレます」

「たしかに」

「使わないように」


 中身が倍になった俺の財布がテーブルの上に置かれた。


「バッテリーの充電はどうするんだ?」俺は聞いてみた。「電力消費がすごいって聞いてたから、充電しなきゃいけないんだろ?」


「スカッシウムで吸い込んだ物質は100パーセントカートリッジには入りません。残りが電気に変換されます」

「バッテリーが無くなったら、何かを入れればいいのか」

「その通りです」プロメがまた黒いボロンをパカッと開いた。「絶対に手を入れないように注意してくださいね」


 俺の倍になった財布が、ゆっくりと黒い底なし沼に沈んだ。





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