地下
俺たちは車に乗り込んだ。ハンドルはストルン少佐が握り、助手席にはプロメが座った。
後ろのシートは左右に2席ずつ、右に俺とテルルで左にマリーが座った。
「ストルン、安全運転で頼むぞ」マリーが運転席に声をかけた。
「了解だ!」
ストルンはゆっくりと車を発進させた。車は左に曲がり、下り坂を降り、直線を走り、また左に曲がり、グルグルと地下へ下りて行った。
5階分ほど下った所に脇道が現れた。まっすぐ何処かに続いている。天井に付けられたオレンジの照明がまっすぐに遠くまで伸びている。
少佐は右に曲がってその道に入った。
「これが外に繋がってるのか?」
「軍曹は地上から来たって言ってたね、ゲートを2つ通過したろ?」
「あー、たぶん」
「たぶん?」
「トミーはな、救急車のベッドに縛り付けられてたのさ」
「外はまったく見えなかったんだ」
「へー、まあその時も地上のゲートを2つ通ったはずなんだけど、地下にもゲートが2つ在るんだ」
「俺はパス出来るのか?」
「私が先ほど行ったモコソの処理で問題なく通過できるはずです」
「そうだったな、俺は軍人なんだっけな」
「れっきとした軍曹だぞ」
「なるほどな・・・」
「見えてきたぞ」
まっすぐなトンネルの遠くに、緑のランプとオレンジのランプが並んでるのが見えた。ゲートが徐々に近づいてくる。車は飛ばしてはいないが、自動運転よりはかなり速度が出ている。
あっという間に車はゲートまで来た。高速の料金所のような緑のゲートだ。レーンには太い頑丈そうなバーが閉まっていて道を塞いでいる。ゲートには人が入るガラス張りのブースがあったが、中に人影はなかった。
車はゆっくりとレーンに入り、ブースの前で停まった。拡声器がトラン語で何かを喋った。
「乗員の認識番号を確認してるから動くなって言ってるわ」
隣のテルルが翻訳してくれた。
天井からピコーンという音がして閉まっていた頑丈そうなバーがゆっくりと開いた。どうやら無事に審査を通過したらしい。少佐はゆっくりと車を発進させた。
ゲートをくぐると天井が高くなっていた。
左右に白い壁があり、そこに窓がズラッと並んでいる。窓は3階まである。3階の上は道の天井と一体になっている。
「なんだここは」
「ここはさっき迄いた研究所の職員や関係者の居住区画だな」マリーが答えてくれた。
「この中がアパートみたいになってるのか?」
「そうだ。日本のアパートよりはかなり広い部屋だがな。今でも人は住んでると思うが、どのぐらいの人数がいるのかは知らん」
「人ってのは、あの鉄の体になって仮想世界に行きっぱなしで、この建物の中にいるのか?」
「おそらくな」
「DNAの研究は完了したんだ。病気も無くなって、患者もいなくなって、みんなすることが無くなった。あの体になって私たちは完成した。研究者たちは仮想世界で幸せな夢を見ながら余生を過ごすだけだ。半永久的に死なないから余生という呼び方が正しいのか分からんがな」
「建物が老朽化したらどうする?」
「いろんな自動機械が維持管理で動いてるからな、大丈夫だろう」
研究者の宿舎のような区画には動くものは何も見えなかった。道路わきに等間隔で並ぶ白い街灯が無人の建物と道路を静かに照らしていた。
そんな静かな道を車は右に左に、何回か曲がった。次のゲートまでの道は一直線ではないらしかった。
「ここは少しだけ迷路になってる。行き止まりが多いんだ。セキュリティーの為だな」ハンドルを握るストルン少佐が説明してくれた。「そこを曲がったら次のゲートだ」
車が角を曲がると、少し先にゲートが見えた。
車はまたゲートで1回停まり、太いバーがゆっくりと開いた。
「今までは軍の管理する重要施設の中でした。ここからは外という事になります」プロメが言った。
ゲートの外は一直線のトンネルだった。さっきまでの高い天井と比べるとすごく低く感じるが、ただのトンネルだ。左右にオレンジのライトが等間隔に並び、トンネルの道を照らしている。
車はその一直線の道をしばらく走った。
やがてトンネルの向こうに白い光が見えた。トンネルの先に明るい場所があるようだ。
「ここから街なんだ。ここはかなり大きめだな」
「おおおおお!」
トンネルを抜けると空が開けた。天井はすごく高く、遠くまで空間が広がり、左右にも空間が広がっていた。天井は白い照明で埋め尽くされ、街は昼のように明るい。
トンネルの出口は少し高台にあり、遠くまで街並みが見渡せた。
街には大小のビルが並び、道が碁盤の目のように走っている。ひときわ大きな20階建てぐらいの白いビルが何本も何本も建ち、そのビルの最上階は高い街の天井にくっついて、街を支える柱のようになっていた。
「ストルン、1回停めて」
プロメが言い、少佐は車を路肩に停車させた。
「地下には街があるとは聞いていたが、こんなに広い空間だとは思わなかった」
「軍曹、テルルとはどうやって来たんだ?」
「地上で、海沿いだな」
「地下は危険なので、それで正解です」
「危険なのか?」
「もしも人工知能の管理する警察ロボに呼び止められた場合・・・」
「呼び止められる?」
「信号無視や速度オーバーや、法律違反は多々ありますが、その場合呼び止められます」
「呼び止められてどうなる?」
「この体は違反です」
「全員、金属の体にせよ、だったな」
「おそらく逮捕され、留置場に入れられます」
「それで?」
「プロメ、向こうからパトロールが来た。緊急で行くぞ!」
「緊急用ライト点灯」
車のヘッドライトとウインカーが点滅し、ピピッピピッと大きな音が外に流れた。それを確認し、少佐は車を発進させた。
「これはな、軍用のサイレンだ。これを点けてる間はスピード違反も信号無視も警察は関与しない。少しスピード出すぞ」
少佐はアクセルを強めに踏み込み、大きなジープは加速した。
「ここから大きな街を4つ越える。5個目の街に軍用列車の駅があるんだ」少佐が運転しながら説明した。
「5個って、けっこう遠いのか?」
「遠いな、ニューヨークとヒューストンぐらいかもしれないな!」
「どのぐらいか全く分からん・・・」
「遠いから覚悟しろってことだ」
車は街の真ん中は走らず、端のほうにあるバイパスのような道をスピードを出して走った。他に動いている車は警察のパトロールと清掃車ぐらいだった。
警察と何回もすれ違ったが、俺たちの車には反応しなかった。中にロボットみたいなのが乗ってるのが見えた。
バイパスの道路脇には、たまにドライブインの店と、その横に公衆トイレがあった。俺たちは何回かトイレに立ち寄り、自動販売機で飲み物を手に入れたりした。無料だ。
「地上の海沿いには有料の物もあったよな」
「ああいう田舎とかは無料の切り替えよりも先に人がいなくなったのよ」
「それだけ時代が変化するスピードが早かったってことか」
「そういうことね」
ドライブインの店は食べ物を食べられそうだったが、店で食べることはしなかった。
「もしも食べてる途中でパトロールロボットが店に入ってきたらマズイだろ」
この体でいることにロボットは過敏に反応したりはしないが、職務質問のような場合、危険人物かどうか判定を迫られる状況だとアウトらしかった。
「乗れ軍曹、出発しよう」
「あいよ」
「キサマー、上官になんという口の利き方だー、腕立て100回だぞー」
「はいはい少佐殿」
「よーし、出発だー」




