こよみ
「現代の知識って言っても、この星より科学が進んでるわけじゃないんだろ?」
地球には他の星系の惑星に、情報収集の探査機を飛ばすなんてことは出来ない。いや、出来るのかもしれないが、光の速度を超える通信装置も開発されていないはずだ。それにだ。
「40光年の距離を光の速さで機械を飛ばすなんて、地球人には出来ないぞ」
「地球の科学は、もうかなりのところまで私たちに近づいているけれど、機械を宇宙で加速させる技術は、科学力とは関係ないのよ」
「そういえば、レーザーブーストって言ってたな」
テルルはさっきの会話の中で、何かを「後で説明する」って言ってた。たしか、何とかとレーザーブーストだ。
「スイングバイとレーザーブーストね」
テルルはラウンジに並ぶ自販機の中にある、子供向けの菓子が出てきそうなやつの前に行ってボタンを押した。
戻ってくると手には菓子箱が握られていた。絵柄には黒い丸い絵が描かれている。中には何かの種が入っている。
地球でもおなじみの菓子だが、食べたらきっと別の味がするんだろう。
テルルは菓子箱を開け、中の菓子をテーブルに転がした。黒い菓子は表面がデコボコしていてかなり大きめだった。全部で10個ぐらい入っていた。
「これが太陽ね」テルルは1つをテーブルの真ん中に置いた。「そしてその周りを惑星が7つ回ってるの」
「この惑星は第六惑星だっけ?」
「そうね、地球のスイキンチカモクみたいに、私たちのキリア系は内側から、スーヘ、リイベ、ボクノフ、ニオン、ナーヌ、トラン、マグ、そして小惑星帯があって、すごく遠くに第八惑星の小さな氷惑星、アルミンがある」
「惑星は8個?」
「そうね、そしてこの星トランは6番目」テルルは手を開いて5本の指を見せた。右手の5に、左手の人差し指を添えた。この星の人間も手の指が5本ある。本当に異星人なんだろうか・・・
「さっきも言った気がするけれど、キリアは小さい太陽なの。質量で言えば地球の太陽の10分の1ぐらいね、私たちからすれば、あなたたちは10倍も大きい太陽の強烈すぎる光で進化した。地球人はどうしてそんな環境で進化できたのかすごく不思議だけど、それは宇宙の神秘ってやつだわ」
「それは、太陽から離れているからじゃないのかな?」
「その通りね、私たちの星系は地球の太陽系に比べれば、ものすごく小さいのよ。私たちの星が太陽を1周するのにかかる時間は、地球時間で約12日」
「12日って、1年が12日ってこと?」
「そうよ、だから私たちの感覚では、1年は1週間みたいな使い方をしている。この説明で感覚が伝わるかしら」
テルルも地球人との感覚の差異を説明するのに苦労しているみたいだ。説明はすごくわかりやすい気がした。
「それでね、惑星の周期を地球時間に変換してみたんだけど、内側から言うとね、スーヘは1年が36時間、リイベは58時間、ボクノフは96時間、ニオンは146時間、6日ぐらいってことね、ナーヌは9日で、トランが12日、マグが20日で、一番遠くのアルミンは85日ってことになるんだけど、理解できる?」
「太陽系の一番内側の水星は、何日で太陽を周ってるんだるろう」
「88日」テルルはすぐに答えてくれた。「だから、それよりもすごく太陽に近い場所を周ってるわけね、こっちの惑星は」
「だから潮汐ロックする?」
「その通り。学んだわね」テルルはにっこり笑った。
久しぶりに先生に褒められた気分になった。何十年かぶりに味わう感覚だった。
「私たちのカレンダーは地球人には少し複雑で、潮の満ち引きに合わせて作られたんだけどね」
「潮の満ち引きって、月が起こしてるんじゃなかったっけ」
「地球ではね。ここでは隣の惑星が近いから、トランだと、隣のナーヌとマグが接近した時に大きな満ち潮になるの。他の星も小さな影響があるけど、内側のボクノフとニオンとナーヌがすべて近づいたときに一番大きな満ち潮になって、その周期を使ってカレンダーを作っている」
「見れる?」
「何を?」
「カレンダー」
「見てもいいけど、カレンダーじゃ何も分からないわよ」
「そうなのか」
「日曜日は無いし、日にちっていう概念もない」
「日にちがない?」
「昼と夜のような区切りがないから」
「うーん・・・」
「あ、外の太陽を見て。黒いのがあるの分かる?」テルルは太陽を指さした。いつのまにか雨はやんで、雲に隠れてうっすらと太陽が見えた。
「黒いしみがあるな」
「あれがスーヘ。一番内側の星ね、あれが太陽を横切る時刻が、地球で言えば1日の区切りになる」
「スーヘの1年は何時間だっけ」
「36時間」
「1日は36時間ってことか」
「それより少し長いわね、こっちの星も移動してるから」
「なるほど・・・」




