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スイングバイ

「それで、スイングバイの話ね」テルルは黒い丸い菓子をひとつ口に入れた。「トミも食べてみて」


 テルルはテーブルの上に転がる黒い菓子の1個を俺のほうに転がした。俺はそれを口に放り込んだ。口の中に、缶コーヒーのような甘い香りが広がった。


「地球でもスイングバイは加速と減速に使ってるみたいなんだけど、スイングバイっていうのは宇宙で探査機とかを加速させるときに、惑星の重力を使ってブンって加速させる技ね」テルルは空中で指をブンって回した。


「それは何となく知ってる」


「ここだと惑星が近いから、ぶんぶん回せるわけ」テルルは空中に8の字を書いた。「いくつもの惑星をブンブンさせて何回も加速させるわけ」


「8個の惑星を使って加速させるわけか」


「ぜんぶは使わないけど、その時の惑星の位置を見て、効率のいいスイングバイのルートを計算するわけ」テルルは空中に半時計回りに三角や四角を何回か書いた。「加速しまくるわけ」


「それで光速まで加速させるのか」


「さすがに光速は無理ね。だから最後に、衛星軌道上に浮かべたレーザーを使って押すの」テルルは指で空中の何かをまっすぐ押す仕草をした。「ビーってね」


「ずっと押し続けるのか?」


「残念ながら、レーザーのエネルギーはずっと続かない。それにレーザーを出している衛星もその反発力で逆側に押されるから、それをスラスターで相殺するんだけど、スラスターも長時間は噴射できない。ずっとっていうのは無理ね。でも光速の95パーセントぐらいまで加速できるわ」


「まて、そんな速いのが俺に当たってたら死んでたぞ」隕石にぶつかって死ぬってどれだけ運が無いんだろうか。


「減速したわよ、土星と木星と、木星の衛星で減速スイングバイしたの」

「減速したって速いんだろ?」

「ちゃんと人間を探してプログラムが作動するようにしてたから大丈夫よ」テルルは少し怒って言った。「ぶつかったりしない」


 俺は無意識にテーブルの上の黒い菓子を転がしていた。さっきまで太陽とか惑星に見立てていた黒い菓子だ。缶コーヒーの味がする。


「ねえ、その星ね」テルルが俺の転がしている菓子を見て言った。

「どの星?」これは第何惑星だったろうか。

「ニオン」テルルはテーブルに肘をついて、感慨深げに言った。


「何番目?」

「4番目、第4惑星、ニオン」

「ニオンがどうかしたのか?」


「その星はもう住めない。私たちが住めなくしてしまったの」テルルは悲しそうに言った。


「前は住めたのか?」

「ずっと昔ね、私たちがスチームパンクだったころ」

「スチームパンクって何?」

「え?」テルルは俺がその言葉を知らないのを驚いているみたいだった。


「地球では蒸気機関とか石炭が主流な時代をスチームパンクって言うんじゃないの?」

「それは、小説とかの設定の話じゃないかな」


「ネットを信用してはならないっていう言葉は、信用していいみたいね」

「そうだな」



「私たちの祖先は、ニオンで生まれたのよ」テルルが言った。




 

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