プラセオ
「それより、地球からデータが送られてきてるってのは、どうなったんだ?」
「そう、それね」
「データ収集装置だっけ?名前は何だっけ」
「プラセオね」
テルルが教えてくれた。プラセオが地球に着いた。さっきそう言った気がする。
「そうそれ」
「ねえ、この40年間で地球の文明技術レベルは驚くほど進化したわね。驚いた」
「進化?確かに40年前と今じゃ、ぜんぜん違うけどな」
「データ量がすごいのよ」
「データって、ネットとかか?」
「テレビ電波と無線電波のデータ通信で、拾えるものを送るように設定してたんだけど、データ量が多すぎ!」
「無線の通信って何だ、タクシーの無線が多いのか?」
「違うわよ!」
「それで、多すぎてデータがパンクしちゃうとかなのか?」
「それを言うなら、サーバーがパンクかしらね」
「ごめん、よく知らないんだ」
「私が送った機械、プラセオはね、不確定素粒子を使った通信装置でね、送受信できるデータ量に限界があるの。バッテリーが無くなるみたいな感じで。そして補充も出来ないの」
「わからなそうだから説明しなくてもいいぜ」
不確定なんとかってのは脳が拒絶する単語だ。
「いいえ、するわ。したいのよ、科学者だから」
「そういうもんか・・・」
「ここにミカンが2個ある」
テルルはミカンじゃない味のミカンを2個手に持って説明を始めた。
「このミカンは、枝に対で実るとする。絶対に対でしか実らない果実ってことね。常に2個で生まれる。素粒子もそうなのね」
「うん・・・」
「それでね、2個のうち1個はすごく甘くて、もう1個はすごくすっぱい。絶対に。両方が甘いとか両方がすっぱいとかは絶対にない。素粒子で言えば、片方がプラスだと片方は絶対にマイナス。他にもトップとボトムとかアップとダウンとか、対になる性質はいろいろあるんだけど、ニガいとしょっぱいとか別の組み合わせもあるってことだと思って」
「はあ・・・」
「でね、ここからが不確定な素粒子の説明なんだけど、ミカンって食べるまでは、どっちが甘いミカンか分からないじゃない。食べたら甘かった。じゃあ食べてないこっちは食べなくてもすっぱいってわかる。でも本当は食べなくても最初から「実は甘い」「実はすっぱい」って決まっていて、それを隠してそこに存在している」
「そりゃそうだろ」
「でも素粒子は、誰かが食べた瞬間に、誰かが食べて甘いって知った瞬間に、別のミカンはすっぱいミカンって確定されるの」
「うん?」
「甘いかすっぱいか確定しない状態でこの世界に存在することができるの。確率50%で」
「はあ・・・」
「大切なのは、このミカンの距離が40光年離れていても、地球で誰かが甘いミカンを食べた瞬間に、こっちのミカンは絶対にすっぱいミカンに変化するの。瞬間にすっぱい100%になるの。まったく同時に」
「同時ってどういう意味?」
「光の速さを超えるって意味」
「いいの?」
「この宇宙では許されてるの。素粒子には」
「はあ・・・」
「でね、プラセオって通信装置は2個セットで作られる。こっちに1個、地球に1個ね。中には不確定な素粒子がたくさん入っている。その素粒子を通信に使ってるの」
「なるほど・・・」
「使い切るまで通信できるの」
「それで、使い切った?」
「まだよ。でも地球に向けて飛ばしたのはすごく小さくて軽いタイプだったの。スピードを優先したから、速度を出すために一番小さいのを飛ばしたのね」
「うん」
「スイングバイとレーザーブーストで」
「何?」
また知らない単語が出てきた。
「それは後で説明させて。それで、小さいプラセオの話だけどね、あなたのデータで80パーセントを使ってしまって、もちろんそれでいいんだけど、20パーセント残るって計算通りなんだけど、そのあとにキャッチした地球の通信データの量が多すぎて、もうあまり残ってないのよ」
「何個?」
「何が?」
「不確定な素粒子」
「知らないわよ!10パーセントよ。あなたスマホのバッテリーの残り10パーセントを見て電子あと何個だなって考えるわけ?!」
はじめてテルルが怒るのを見た。
「たくさんよ、個数ならね」
「それで?」
「データ通信は重複も多いし参考にならないデータも多いから、これからはテレビだけ送ってもらうことにしたわ」
「テレビみられるの?」
「見たい?」
「見たいかも」
自動録画をセットしていた番組を思い出した。くだらない番組だが、それが好きだった。自動録画ってここでも出来るんだろうか。ああ、きっと全部を録画してるんだこっちで。
「そういえば」テルルがさっき怒った時に。
「何?」
「スマホって言った」昭和しか知らなかったのに。
「そうよ、現代の知識を手に入れたわよ」テルルはニヤッと笑って言った。




