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眠り

夢を見ていた。


 俺はまだ子供で、プラモデルを作っていた。


 夏休みで、セミの声が聞こえて、扇風機が回るたたみの部屋だ。


 遠くで風鈴の音がした。


 横を見ると、兄がいた。


 たたみにあぐらをかいて座って、兄は赤いプラモデルを作っていた。


 俺は白いパーツをニッパーでパチパチ切っていた。


 俺は兄に負けないように、いそいで作っていた。


 プラモデルに付属した小さな接着剤で、慎重に足のパーツを接着していた。


 足が完成すると、両足を胴体にくっつけた。


 手も頭もくっつけた。完成した!そう思った。


 俺は完成した白いプラモデルを、畳の上に立たせてみた。


 するとプラモデルは俺を見上げ、俺を指さして「ヘタクソ!」と言った。


 俺は少しむっとして、プラモデルをがっしりと掴み持ち上げようとした。


 しかしプラモデルは持ち上がらなかった。

 

 接着剤でたたみにくっついてしまったんだろうか。


 「私を救ってほしいのです」


 プラモデルは美人の小さなフィギュアに変わっていた。


 「ねえ、起きてくれる?」







「ねえ、起きてもらっていい?」

 目を開けると赤い髪の女が俺を見ていた。

「起きるよ」俺は答えた。「なあ、さっきのプラモデルの姿は何だったんだ?」


「あなたがびっくりしないように」

 テルルは、当然でしょう。なぜそんなことも分からないの?という顔をした。

「だって、小さな金属生命体みたいな異星人が現れたら、びっくりするでしょ?」


「動くプラモデルだってびっくりする」


「そうなの?でもいいアイデアだったと思うわ。少なくともあなたに恐怖心は抱かせなかった」


「確かに」恐怖は感じなかった。


「でしょ」テルルは少しニコッとした。「ちゃんと流行を押さえて最新のを作ったのよ」

「最新のって・・・アニメは見ないんだ」



 外を見ると、かなり暗くなっていて、雨が降っているようだった。どんよりとした雲が空を覆い、遠くでカミナリも光った。


「さっきの質問で、ひとつ訂正しなくちゃいけないわ」

「さっきの質問?」

「いつ寝るのか」

「眠くなった時に?」さっきはそう答えた。


「本当は雨の時に眠るの。昔はそうだった。現代の文明社会では、世界は眠らずに動き続けていたから、雨でも寝なくなった」テルルは外の雨を見ながら説明した。「お店はいつでも開いているし、工場は生産し続ける。だから晴れとか雨とか関係なくなった。でも昔は、雨の時に寝ていた」


「晴れが何日も続いたら?」

「晴れは長時間続かないの、この星では」

「続かない?」

「雨も続かない」

「そりゃうれしい」


 テルルがテーブルの上から、ミカンのようなオレンジ色の丸い果物を取り上げた。テーブルの上には丸い果物が4種類乗っていて、横には小さなナイフがあった。

 テルルはオレンジの果物を手に持って、説明を始めた。


「これがトランだとするでしょ、それでこっちが太陽ね」テルルは赤いリンゴのような果物を俺に持たせた。「そっちから光が当たっていると、昼側の中心に大きな雲ができるの」

 テルルは身振り手振りで説明した。

「雲の下は海ね。海の水は太陽に温められて、昼の中心に大きな雲ができる。そして雲は丸く広がっていくの、星全体に。ゆっくり星全体に広がって、夜の側まで行って消える。中心は一回晴れ渡って、また雲が出来て、広がっていく。気圧の高い所と低い所が、波のように常に動いているの。簡単に言うとね」


「雲はドーナツみたいな輪になって広がっていく?」


「実際には、海流の暖かな流れと冷たい流れの影響を受けて、丸は大きく歪むし、星も太陽の周りを回ってるから遠心力の影響も受ける」


「遠心力?」


「内側より外側のほうが遠心力って強いでしょ?だから内側の昼より外側の夜のほうが強い遠心力を受けて、そのおかげで暖かな海流も星を一周してるんだけど」


「ごめん、分からない」


「いいのよ、普通の人は知らなくて。晴れと雨が交互に来るってことだけ知ってれば問題なく生きていける」


「詳しいんだね」


「学者だから。学者じゃなくても、一般常識だけど・・・」

 テルルは少し恥ずかしそうな顔をした。誰でも知っていることを偉そうに言ってしまった気がしたのか、学校の先生にでもなった気がしたのかもしれない。



「なあ、聞かなきゃいけないことが沢山ある」

「どんなこと?」

「寝る前にそう思ったんだが・・・思い出せない」


「この果物、食べてみて」

 テルルが、さっきまで惑星に見立てていたミカンのような果物を俺にむかって突き出してきた。

「地球のと同じじゃない?」

「見た目はミカンそっくりだけど」

「同じように手で剥いて食べるのよ」


 俺はミカンのように皮を剥いてみた。中にはミカンのようなオレンジの房が丸く並んでいた。そしてそれを真ん中で割り、人房取って口に入れてみた。見た目はミカンだ。


「同じ味?」テルルが興味津々でこっちを見ている。


「うーん・・・」

「違うの?」

「微妙に違うけど、おいしい」


 口の中に甘さが広がった。


「同じ見た目だから、同じ味だと思ったんだけどなー」テルルは残念がった。

「甘いレモンって感じだ」俺は味を説明した。


「レモンの味を知らないから分からないのよ」

「残念」甘いレモネードのような味だが、レモネードの味だって知らないだろうな。「他の果物でミカンの味のやつがあったら教えるよ」


「そうね、知りたいわ」




 


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