その1039 『『魔術師』からの依頼』
「ただ、どうもラビリは大婆様の付き添いでまだ忙しそうだ。こちらの話を先に進めてしまおう」
フェンドリックに言われ、
「もう話すことあったっけ?」
とクルトが返す。戦争に、ブライトの件に、ラビリの件。何もかも伝え終わった認識だ。
「互いの情報はだいぶ出し合ったと思うけれども?」
フェンドリックはそれには頷いてみせた。
「そうとも。だからこれからする話は、依頼だ」
「断る」
間髪入れず、レパードが返した。
「知っての通り、俺らはお尋ね者だ。身を潜めておきたい」
理由はしっかりしているが、単にこれ以上『魔術師』たちと懇意になりたくないという意図は読めた。イユとしても同意だ。幾ら面白い反応を返す人物だろうと、線引きはしておきたい。
「そうは言わず、まずは話だけでも聞いて欲しい。こちらもほとほと困っていてね」
レパードは帽子を目深に被り直した。聞きたくないとその態度が言っている。
とはいえ、レパードの仕草の意図はフェンドリックには伝わらなかったらしい。フェンドリックは説明を始めた。
「実は風切り峡谷では長年密猟者の存在に悩まされている」
飛竜の密猟だという。飛竜の爪や牙からはいい武器が作れることから、後が絶たないのだそうだ。
「特にここ半年は活発でね。どうやら、彼らはばらばらではなく一集団として動いていることが見えてきた。しかも、どうも誰かから大量に武器の注文を受けているようなんだ。……その理由が今後来たる戦争のためだとしたら、どう思う?」
急に話を振られ、イユは戸惑った。
「えっと……、それはつまり、半年前から戦争が来ることを見据えていた誰かが、密猟者から武器を買ったということ?」
縁のない話かと思いきや、途端に自分たちに関わりがあるように見えてくるのが不思議だ。
「あり得そうな話だろう? そこで、峡谷の者たちの協力を得て、被害状況から彼らの動向について探りをいれた。その結果、どうやら玉島を根城にしていることがわかってきた」
聞き慣れない言葉だったのは、イユだけではないらしい。
「玉島って何かな?」
とブライトも聞いている。
「この風切り峡谷から少し離れたところにあるとても小さな島だ。名前のとおり、玉のように丸くてね。常に霧に巻かれていることから、霧玉とも呼ばれている」
霧玉。名前だけなら、島だとも思わないだろう。
「良ければ、君たちにその島を調査してほしい」
それが依頼の内容らしい。
「報酬は、金銭に加えて命の妙薬で払おう。君たちの中にはまだ怪我人がいるとのことだから、助かるだろう。密猟者がいた場合、彼らが持っているだろう商品も好きにすれば良い」
レパードが渋い顔をした。
「何故、俺らに頼む」
「残念ながら、国は風切り峡谷の問題は『魔術師』の管轄として助けてくれなくてね。かといって、戦争を起こした家の『魔術師』となれば、満足に武力も持たせてもらえないときた」
しかも、その『魔術師』のお家芸が占星術という戦力にはならないものとなると、確かにどうにもならないだろう。
「ギルドがいるだろ。陰で頼めるはずだ」
「確かに日常での困りごとにはひっそりと頼んではいる。だが、今回密猟者は戦い慣れている。何故、彼らがギルドの人間でないと言い切れる?」
レパードの反論に、フェンドリックは逆にそう問う。
「……いや、実際直接の犯人はギルドではあるだろうな。問題は、ギルドの雇い先を信用できるところにするべきということだ」
待ってましたとばかりに、フェンドリックが言葉にした。
「それならまさに、君たちのことではないか」
レパードはまた帽子を被り直す。
「冗談はよせ。お前の言う信頼できるギルドは、世界的指名手配犯を処刑台から攫っているんだぞ。もう少し他にあるだろ」
イユも頷いてしまった。
「残念ながら、君たち以外の適任はいないよ。君たちならば、戦力の面でも申し分ないからね」
それから、フェンドリックは頭を垂れ、両手を組んでその肘をテーブルに置いた。考えるような、祈るような所作である。
「峡谷の者たちは、飛竜を育てることをずっと生業にしている。それは、飛竜は絶対数が少なく、狩りなどすればあっという間に絶滅してしまうと分かっているからだ。それゆえに互いに良い関係性が築けていたのだよ」
顔を上げたフェンドリックの目に、イユたちが映っている。
「私はね、その共生を美しいと思うのだ。そして、君たち、『龍族』や『魔術師』、普通の人間。それどころか、式神などという存在が集うセーレのこともね」
意外な感想だった。フェンドリックがそのようにイユたちを見ていたとはまるで思っていなかったからだ。むしろ美意識なんて持ち合わせていないだろうとまで、思っていた。
フェンドリックはだから、こう紡いだ。
「故に、君たち以外に適任などいないだろう」




