その1038 『命運とは』
「……は?」
イユとしては戸惑うしかない。唐突過ぎる宣言に、思わず、
「呆けてるの、この人」
「待て待て待て。失礼にも程があるぞ」
レパードに大慌てで止められた。
「構やしないよ。所詮、私らが使う占星術から覗き見ることができるのは、僅かなこと。実際本当に命運を握るかなんて、分かりゃしないからねぇ」
呆けているかの回答にはなっていなかったが、未来を読み外す可能性がある、という意味だとは伝わった。
「ただ、視えたのさ。あんたが、世界の脅威と共にいる姿がね」
「世界の脅威……?」
聞き慣れない響きに思わず問い返した。
「そう、それが何かまでは私には分からない。ラビリの力があってもこればかりは無理だ。おまけに、そこの男はさっぱり才能がないときた」
そこの男呼ばわりされたフェンドリックを見て、イユは問う。
「……もしかして、魔術が使えないの?」
「いや、私はれっきとした『魔術師』だ。馬鹿にしないでもらおう」
使える魔術が違うのか、精度が悪いのかまではよくわからなかった。実際、ブライトという他の『魔術師』を前に言いたくはないだろう。使える魔術に限りがある以上、切り札を漏らすようなものだ。
「よく分からないけれど、それが確かなら今後イユの協力は必須になるね」
ブライトが話を元に戻す。
「あぁ、あんたがあの悪名高い『アイリオールの魔女』かい。確かに、悪人面だ」
ブライトは大変ショックを受けた顔をした。
「えぇ?! それは初めて言われたんだけど!」
悪人面が余程堪えたのか、もう敬語は止めるスタンスなのか、しっかり私語である。最も、イユも驚いてしまった勢いで口調は改めていないから、今更だ。
「だが、私にはそう視えるねぇ。たくさんの怨霊が取り憑いていそうな顔だ。まだ苦労しそうだねぇ」
「いや、どんな顔なの、それ……」
もはや反論する気力もなくなったブライトが、疲れたように声を絞り出している。
「そんな顔、みたい?」
刹那が無邪気に小首を傾げてとどめを刺す。それで、老婆の感心が刹那に映った。
「あんたは自分の命の使い道を考えているね?」
はっとした。
「できる?」
刹那は隠さず、できるかどうかを問う。使い道のその先を問われた老婆は肩を竦めてみせた。
「さて、どうだかんね。そこまでは分からないよ」
答えるつもり自体ないのだろう。老婆の感心は、クルトに移る。
「あんたがラビリの妹だね。なるほど、よく似ているね」
「へっ? 本当? 初めて言われたんだけど、それ」
クルトとラビリは確かに姉妹だが、髪色も顔の形も背丈も似ていない。らしからぬ感想にクルトが驚くのも納得であった。
「そして、あんたがレパードかい。なるほどね」
「……何が、なるほど?」
レパードへの感想に、気になった刹那が呟く。
「いや、何。女難の相が見えると」
一斉にそこにいた女性陣たちの視線を浴びたレパードは、呆れたように
「悪かったな」
と呟く。
「態度が悪いから……」
元彼女というラヴェンナに憎まれていたことを思い出しての皆の発言だった。ここにいるのがほぼ女性陣というのもあって、レパードの肩身はより一層狭そうだ。
「それで、あんたが放蕩息子」
老婆はそう言って、フェンドリックを嘲笑う。存外、ふざけているようだ。
「大婆様の目は年老いすぎて、私の勤勉さが映らないようで真に遺憾だよ」
フェンドリックもやり返してみせた。
「勤勉? ずる賢いの間違いだろ?」
叫ぶように返した老婆はくるりと背を向ける。
「さて、邪魔したねぇ。私はもう一回星でも呼んでくるとするよ」
大慌てでラビリが止めに入る。
「大婆様。そんな無茶をしたら負担に」
「構いやしないよ! どうせ戦争はもうすぐ起きるんだ。だったら、それまで詠めるだけ詠むしかないだろう!」
気になる一言があったが、追及はしなかった。ラビリがよたつく老婆を支えて、部屋を出ていく。
「ごめん、クルト! また後で!」
そうして嵐のように去っていった。
「……なんだったの、あれ」
思わずクルトが呟くと、フェンドリックがため息をつく。
「身内の恥が多くて困るよ。あの人が、シェパ・フランドリック。ラビリが大婆様と呼んで慕う人さ」
意外と賑やかなのだとは、先ほどの様子からよく伝わった。
「楽しそうだった」
刹那もそう呟く。
「まぁ、姉さんが上手くやってそうで良かったよ」
クルトもそうまとめた。それを受けたフェンドリックが戸惑った表情だ。
「……良かった、のか? ……いや、君たちが、そう言うのなら突っ込むべきでもあるまい?」
自問自答しているフェンドリックを見て、イユのなかでフェンドリックに対する評価が変わった。
意外と面白いなと思ったわけである。
「イユ、そのにやつき顔をやめろ」
レパードの言葉に、イユは思わず反発した。
「相変わらず、失礼ね!」




