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カルタータ  作者: 希矢
第十一章 『分かつとも』
1037/1043

その1037 『変わらずの』

 ガチャっと開けられた扉から見覚えのある姿が現れる。

「クルト、お待たせ! ……って、刹那ちゃんにイユちゃんに見覚えのないピンクの子? 何、この可愛いの集まり!」

 クルトがいることは伝わっていたらしいとは、その言葉を聞いて分かった。相変わらずの感嘆と同時にハグしようとする姉の姿をみたクルトが頭を抱える。

「相変わらずだね、姉さん」

「主を差し置くあたり、歯止めが利かないな」

 とフェンドリックからも寂しそうに感想が述べられる。

「あ、いや。視界に入った順番といいますか! どうしても、可愛いは正義といいますか!」

 しどろもどろに意味の分からない言い訳を重ねるラビリからは、焦りが浮かんでいる。

 そうしたラビリをみたブライトからは一言、

「これが姉……。見習わないと」

 などという、ワイズが聞いたらげんなりしそうな感想が入った。


「……冗談はおいておくとして、久しぶりだな、ラビリ。元気にしていたか?」

 レパードが取り直すように挨拶をすると、ラビリもそれに答えるように手を挙げて元気さをアピールする。

「うん、勿論! 手紙で読んだけれど、皆こそ無事で何より。本当にほっとしたよ」

 いろいろあったのはイユたちの方だが、嬉しそうな顔を隠さないラビリを見て、イユも安堵した。魔術に掛けられた様子がないのも安心材料だ。

「約束は破っていないみたいね? ラビリに何かをしていたらタダじゃ済ませないところだったけれど」

 牽制してみせると、フェンドリックには肩を竦められる。

「信頼のないことだ。最も、それぐらい警戒心があってくれたほうがこちらとしても安心だ」

「そりゃ、相手が『魔術師』じゃね」

 クルトがそう告げると、ブライトが

「すみませんでした」

 などと小声で呟いて、小さくなってみせる。

 その様子を見ていたラビリが朗らかに微笑んだ。

「ということは、あなたがブライトだね?」

 いつものラビリならするであろう、ちゃん付けはない。そして、ラビリの目は笑っていない。意図して作られた表情だと気付いたイユは、何故か背筋が寒くなった。

「うちの妹が大変世話になったみたいだね。前回峡谷に来た時に顔ぐらい出しておけば良かったなって後悔してるよ」

 言葉は丁寧なのに、凄みがあるのが不思議でならない。

 ブライトにも伝わっているようで、背筋を正してみせた。

「こちらこそ。迷惑を掛けまくりだから、謝罪の言葉しかないよ」

「そっか。自覚はあるんだね」

 こういうところは姉妹だと感じた。クルトのフェンドリックに対する強い口調と、ラビリのブライトへの態度が似ているように見受けられたからだ。とはいえ、イユとしても『魔術師』への態度としては正しい対応と感じる。

「それなら、今度うちの妹悲しませたら、相応の覚悟を……」

「ラビリ。あまり責めても話が進まないだろう?」

 フェンドリックが窘めると、ラビリは大人しく口を噤んだ。

「それより、占星術は順調かい?」

 振られたラビリはこくんと頷いた。

「あっ、はい。大婆様からも同じ結果が出ました。それで……」

 ラビリがくるりと後ろを振り返る。開けたままだった扉の奥から、足音が聞こえてきた。コツン、コツンと、床を叩くような音だ。少しして、それが杖だと気がつく。

 やがて、白磁の髪と黄色のギロッとした瞳が浮かび上がった。

「お邪魔するよ」

 嗄れた声だ。コツン、コツンと遅れて杖をついた老婆が歩いてくる。背中が折れそうなほどに曲がり、一歩を歩くのも辛そうだ。

 ラビリがすぐに付き添った。フェンドリックというよりは、大婆様と呼ばれたこの人に仕えているとよく伝わる動きである。

「これは大婆様。わざわざ会いに来てくださるとは」

 フェンドリックが立ち上がって、優雅に礼をする。その仕草に芝居が掛かっていた。

 レパードも立ち上がり、それに合わせてイユたちも立ち上がった。

「はじめまして。いつもラビリがお世話になっています」

 レパードの似合わない敬語を聞きながら、イユは老婆の様子を改めて観察する。背中の曲がり具合のせいもあるのだろうが、背はイユが見下ろせるほどに低い。皺だらけの顔は厳しく、貫禄があった。ふくよかな体つきなのもあるのだろう。青を基調に銀糸で飾った衣類には品があり、一目で高価だと気付く。持っている杖も、指のすき間から不死鳥の木彫りが覗いていて、如何にも貴族の持ち物だ。

「話は聞いているよ。だから一度会ってみたかったんだ」

 そう老婆は答えると、全員を見渡すように視線を送った。その視線が、イユで止まる。

「あぁ、あんただね」

「……私?」

 最初はクルトと勘違いしていると思った。普通は、ラビリの関係者に興味関心が向くのであろうと。そうではないと知ったのは、次の言葉があったからだ。

「あんたが、イユだろう? 明らかに他と異なる力を感じる。あんたこそが、世界の命運を左右する鍵になるよ」

 とんでもない宣言に、開いた口が塞がらなかった。



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