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板谷楓のスイートメイプルタイム 2023年5月12日

 山奥にたたずむちっちゃな村、このはな村のコミュニティラジオ、このはなFM。金曜夜のDJは板谷楓さん。彼女のトークと素敵な音楽で綴る番組の様子を、小説スタイルでお楽しみください。

(もちろんフィクションなので番組も放送局も実在しません)

 みなさんこんばんは、板谷楓です。

 週末の夜、このはな村役場分署の一階サテライトスタジオから生放送でお送りする番組、板谷楓のスイートメイプルタイム。

 一週間のお仕事はいかがでしたか? 学校はいかがでしたか? 週末お仕事の方もいらっしゃるでしょう。そしてお出かけの予定がお有りの方も、予定が未定の方も、わたしの話に興味を持って、お耳をこちらに傾けていただければ幸いです。

 このはな村もようやく暖かくなってきましたが、その代わり雷を伴った夕立も今春初めて降りました。気象の世界では雷三日という言葉もあるとかで、特にこのはな村はそれに当てはまる事が多いです。村のみなさま、お気をつけくださいね。

 一方、雨と晴れとが交互に訪れるおかげで、作物がすくすく育っております。

 最近肥料が全国的に値上がりしてるらしいんですが、このはな村は肥料もほとんど自給自足ですね。畑の作物の食べるところ以外とか雑草とか落ち葉とかで堆肥を作るのが村の土に一番合ってるって農家の人は言うんですね。

 それとあと、牧場の牛さんが、ね。落とし物というか、プレゼントというか、ありますよね? ね?


 わたしの番組では特にお便り募集はしていないのですが、それでも番組宛にメールが来ることはありますし、直接のスタジオ横のポストに投函もできます。ただ他の番組もそうですが、お名前を呼ぶことは基本的にはありません。大して人口も少ない村なので、ラジオネームつけてもすぐ個人特定されるかもしれませんので。ご了承ください。

 こんなことをなぜ急に話したかといいますと、SNSに番組のハッシュタグが出来てたんです。いやいいんですよ、他の番組もリスナーの方が作ってくれてますから。でも、ハッシュタグのつぶやきを紹介することもありますが、お名前は省略しますので、ご了承願います。


 で、今日はSNSに多くあった質問にお答えします。

「板谷楓って何やってる人?」

という疑問があるみたいで、そういえばちゃんと自己紹介してなかったなって。

 わたしは、このはな村在住で、普段は村にある医療器具を作る会社に勤めています。年齢は、今年二十二になります。

 このはな村に住み始めたきっかけなんですが、わたしは里親制度を利用してこの村に来ました。ほんとうは十八歳になると里親から自立しなければいけないんですが、わたしの場合、高校を出てから自分の家に戻ったんですが、専門学校を出たあと村に戻ってきました。なんでかって言うと、わたしがこのはな村に来た理由から話す事になりますけど。


 わたしは、家庭に問題があったわけではないんですが、わたし自身が障害を持っていて、そのために自宅で過ごすことが困難になってきたんです。そんな時に両親が離婚して、母一人でわたしと妹と弟を育てるのは大変なので、わたしが里子に出ることを決めました。

 このはな村は、世帯数に対する里親家庭の割合が日本一なんです。わたしは生涯があるので、医療や福祉の仕事をしている家に引き取られました。

 わたしは中学校からこのはな村に住み始めて、高校も村から通いました。そのあとは実家に戻って専門学校に通ったのですが、学費は村の奨学金でまかなうことが出来ました。里親制度でこのはな村に住んだことのある子どもは、原則全員に高校から奨学金が出ます。返済は不要です。というか奨学金といったら普通は返済不要でしょ、というのが村民の感覚ですけど。そのためか返済の必要な奨学金と区別してスカラシップと呼ぶことも多いです。

 卒業後このはな村の会社に就職したのは、多種多様な人を採用する企業が多いので、自分にも仕事が務まるいい会社を探していたら村内の会社に決まったって感じです。


 今は一人暮らしですが、里親の家のすぐ近くに住んでいます。このはな村に来た里子は、わたしも含めてちょっと変わったところがあって、成人しても村にとどまったり戻ったりしたがる子が多いんです。

 本来は十八歳になったら里親家庭から独立しなければいけないんですが、でも成人になったということは、どこに住んでも自由ってことですよね。だから育ててくれた里親の近くに住んだり、なんなら里親さえよければ一緒に住み続けたっていいでしょ? ってことです。

 このはな中に通っていたとき、社会の先生に教わった言葉をよく覚えてます。

「家族が血族である必要など無い」

血のつながりが無くても家族になっていいじゃないか、という意味です。なぜなら日本の歴史を見ると、跡継ぎの子どもが産まれなくて子孫が途絶える危機を迎えた家が、養子を迎えることで家を保ってきた例はたくさんあるということなんです。血にこだわらなくてもいいってことですね。

 この言葉が、わたしたち里子にとってすごく心強いんです。だからみんな堂々と、このはな村で生活していますよ。


 今日の食レポは、このはな村っぽいカフェラテです。

 どこがこのはな村らしいかと言うと、まず牛乳はいつものこのはな牛乳です。で、コーヒーはこのはな村みたいな寒いところでは育ちませんが、村にある自家焙煎のコーヒー屋さんのお豆を使ったエスプレッソです。

 このはな村では、エスプレッソを注文すると普通の倍以上の量が出てきます。三倍のところもあります。エスプレッソマシンがこのはな村に輸入された時、人々は一回で出る量が少なかったので故障かと思ったらしくて、でも当時はエスプレッソはひと口ぶんの量で飲むものだというのを教える人もいないし、当時はイタリアに送り返して修理してもらうわけにも行かないので、全く出ないわけでもないから二回分を一人前として出せばいいだろうということで、それが普通になったみたいです。


 で、ですね、普通の二倍の量ってことは、ラッテの濃さも二倍なんですよ。

 さっそく飲んでみますね。今日はスタジオ前の中央広場にある「カフィバール次郎茶屋」のラッテです。ここもエスプレッソはマシンのボタン二回押しが標準なので、かなり濃いです。あー生き返る〜。牛乳の自然な甘さとエスプレッソの苦味が調和していい感じです。

 わたしは普通の濃さですが、薄めもできて、五十円引きです。逆に濃いめは五十円増しです。

 濃いめは、三とか四とか聞かれるんですが、これエスプレッソマシン何回分かを指していて、これがどんなに濃くしても追加料金変わらないんですよ。おかしいでしょ? あはは。

 学生さんはミルクを半分くらいにして、満タンになるまでエスプレッソ入れて! なんてことやる子もいますよ。それで採算取れるのかなって思いますけど……。というかそんな濃いのよく飲めるなって感じですけど。

 あ、苦いのが得意じゃない方は、ガムシロップとかメイプルシロップも入れ放題なので安心してください。特にメイプルシロップは自家製の濃厚な甘味なのでオススメです。


 板谷楓のスイートメイプルタイム、そろそろお時間です。わたしみたいに、血のつながった親のもとを離れてこのはな村で暮らす子どもはたくさんいます。それぞれの子がいろんな事情を抱えて村にやってきますが、ほとんどの子が村になじんでいきます。

 それはたぶん、このはな村が他の地域から来た人を迎え入れることに慣れているからだと思います。トランゼエルカムって言葉が村にあるんですが、トランゼはフランス語のエトランジェのことですね。異邦人。エルカムはウェルカム、だからよそからやって来た人も歓迎しましょうという精神が根付いているんです。

 このはな村はとてもオープンな村ですので、観光に来られた際も楽しめると思いますよ。


 それでは、また次回まで、ごきげんよう。


 

 先々週に書き上げる予定の分が先週金曜にずれ込み、感謝こそ早めにと意気込むも逆に土曜日にずれ込む始末。我ながら情けなや。

 自分で自分に締切を課さないと書かないタイプの人間なので、それを破っては元も子もないというのに。


 さて、板谷楓の素性をちょいと明かしてみました。障害者であるとか、里親制度でやってきたとか、ちょっと影がありそうなところを見せてみましたが、あらゆる人がのびのび暮らせる理想の村がこのはな村ですので、このようにあっけらかんとしてるわけです。

そこがつたわってくれればと思います。

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