板谷楓のスイートメイプルタイム 2023年10月13日
山奥にたたずむちっちゃな村、このはな村のコミュニティラジオ、このはなFM。金曜夜のDJは板谷楓さん。彼女のトークと素敵な音楽で綴る番組の様子を、小説スタイルでお楽しみください(もちろんフィクションなので番組も放送局も実在しません)。
もっともなんだかんだで、作者が現実の世の中に対して抱いている不平不満を登場人物の名を借りて吐き出してるだけという話もありますが。
このはな村の設定は、第十部分「板谷楓のスイートメイプルタイム 2023年6月9日」および第十一部分「板谷楓のスイートメイプルタイム 2023年6月16日」の本文にて紹介しています。
みなさんこんばんは、板谷楓です。
週末の夜、このはな村役場分署の一階サテライトスタジオから生放送でお送りする番組、板谷楓のスイートメイプルタイム。
この番組では、このはな村のさまざまな情報と、落ち着いた音楽、そしてわたしのとりとめもない雑談を、ミックスさせてお送りしています。かたい話ではありませんので、どうかリラックスしてお聴きくださいませ。
このはな村の特産品と言ったら、野菜・果物・牛乳・あとはメイプルシロップも有名ですが、薬草も実は有名なんです。
薬草なんていうとゲームの話みたくなっちゃいますけど、ほら、ゲームの薬草って人里離れた所にあって探しに行くみたいな感じじゃないですか。このはな村も、まさにそれ。町から遠く離れたところにあるから、イメージ的には合ってるかもです。
ところで、秋の七草って全部言えますか?
オミナエシ・ススキ・キキョウ・ナデシコ・フジバカマ・クズ・ハギ。
覚え方は簡単。それぞれの頭文字を取って、
「おすきなふくは」
と覚えます。
このはな村では、秋の七草が野生の姿ですべて見られると言われています。そして秋の七草のなかには薬草として重宝される植物もあって、このはな村の自然がその成長に合ってるのだとも言われています。
秋の七草の花の季節は、このはな村ではそろそろ終わります。ですが薬草の収穫はこれからが本番です。
オミナエシは花や根っこ、キキョウも根っこ、ナデシコは草の本体や花、あ、野生のナデシコはカワラナデシコやヤマトナデシコと呼ばれる、ひょろっとした茎が特徴の植物です。このはな村ではエゾカワラナデシコとかタカネナデシコといった寒いところを特に好む変種も自生していて、野生ではこっちの方が多いくらいです。
フジバカマは茎葉、クズは根っこで作った葛根湯が有名ですが葉や花も薬になります。
どの植物も日当たりを好むので、深い森の中ではあまり見られません。このはな村は土地が痩せているし、一年中気温も低く、夏には大雨で養分を含んだ土が流されてしまうので、森林が発達しにくいんだそうです。だから自然の草原がそのまま残っていて、そこに秋の七草をはじめとする草花が育つんですね。
ただし、このはな村は国立公園の中にあるので野生のものを採ることは禁止されています。そこで昔から薬草を人間の手で栽培する習慣がありました。いまも村内各所で薬草畑を見ることが出来ますよ。
といったところで、食レポでーす。
薬草というと漢方などで使われることが多いイメージかもしれませんが、普通に食べ物の材料にすることもよくあります。クズの粉で作るくず餅は村内でも食べられますね。
それからもう一つ。薬用酒ってありますよね。お酒に生薬を漬け込んだやつ。でもあれをお酒にして売っちゃうと、子どもが飲めないじゃないですか。だからアルコール分を入れずに売ってるのもあるんですよ。
子どもが飲むの? って思われる方もいるかもしれないですけど、昔はこのはな村は山の中で成長のための栄養が足りないから薬草で補おう、という習慣があったらしいです。
もちろん、子どもが飲みやすいように味はマイルド、あと薬の成分も弱くして医薬品とかの扱いはしなくて良いようにしてます。
そうするとですね、大人も興味を示すわけですよ。だってもともとお酒のつもりで作ってたものですから、そこにお酒を足してもいいわけでしょ?
そうするといわゆる、最近流行りの下町ハイボールみたいになるんです。
では下町ハイボールって何ぞや? って話ですね。
もともとハイボールというと、ウイスキーをソーダで割ったものを言う場合がほとんどですが、最近は日本に昔からある、焼酎を専用の割り材で割ったものを、下町ハイボールと呼んで安い酒場で出すのが流行ってるみたいですね。
割り材の味はさまざまで、梅の香りがしたり、赤ジソの風味や色だったり、ウイスキーのハイボールに似た色になるものもあります。
割り材はほとんど小さな工場で作っていて、流通する地域やお店が限られているので、幻の味! 的な注目を浴びて、昭和っぽい感じもウケてるみたいです。
ハイボールもカクテルの一種なんですが、このはな村ではカクテルのことを耳で聞いたままの発音で、カッテルとかコッテルとか呼ぶ人が多いです。お酒を割ったものも、割り材もごっちゃでそんなふうに呼びますね。
あるいは、カツモトとか。カクテルというかカッテルの素だから。語感が「勝てる」に繋がるんで、勝負事の縁起かつぎとかお祝いでよく飲まれてますよ。
このはな村にはいくつか製造元があってラベルの色で区別するんですが、わたしは赤が好きです。赤とかの暖色系は甘め、寒色系は甘さ控えめに、だいたい分けられてます。
あとわたしが好きなのは、この赤と紫のブレンドです。紫は効き目が強いと言われてるかわりに、いかにも薬っぽい香りがツンと来るんです。これがB級ぽくて良いって人もいますし、わたしもダメではないんですけど、薄めた方が好きですね。
それから焼酎とかを割るんですが、このはな村は朝夕だいぶ冷え込んで来たんで本当は焼酎を熱かんにすると、割ってちょうどぬる燗くらいでちょうど良いんです。でもカツモトは炭酸入ってないから、ハイボール風にするには炭酸水を足さなきゃダメなんで、それを伝えなきゃなんですよね。
順番としては、焼酎・カツモト・炭酸、そしてステアなのかな? でもわたしは途中に、このはな村自慢のメイプルシロップを入れるんです。これで甘々なお酒になるんですよ〜?
というわけで、完成しましたー! では、ひとくち!
お〜いし〜い!
お薬独特のツンとくる香りと、メイプルの甘さが不思議と合うんです〜。少量のソーダで微炭酸のシュワシュワがあるのも、いいですね〜。口当たりがいいから、スイスイっと飲めちゃうんです。
なんか、心身ともに健康になってく、そんな感じがします〜。
板谷楓のスイートメイプルタイム、お開きの時間が迫ってまいりました。
このはな村の薬草栽培は歴史があって、まだまだ話し足りないことがいっぱいなんですが、でもこの薬草カテールを飲んでると、なんかそういうの、とりあえず次でいいやってなっちゃいますねー。
というわけど、お相手は板谷楓でした。
それではまた次回、ごきげんよう。
ふう〜、あったまってきた〜。もう一杯!
いやいや、外国語を耳で聞いたまま自国語に取り入れるといつのまにか元の読みとかけ離れる、時にはそれが似た発音の自国語と引っ掛けて覚えられたりで意味も変わる、そして作品の舞台をそういう言葉があふれる村だという設定にしたうえで、使おうとしてる外来語でダジャレが作れるとなったら作らずにいられないのが小説書きの性分ってものです。
ただのダジャレ大好きおじさんという話も?
やかましいわっ。
そういう言語形態をピジンと言うんだそうです。例えばハワイは現在英語圏ですが、先住民の言語や、のちに移民としてやって来た日系移民によってもたらされた日本語も混じった、ピジンイングリッシュが存在するそうです。
もっとも、日本という国の言葉は海外から入って来た言葉が満ち溢れていますし、それは近世初頭のポルトガル・スペイン由来の単語や、もっと言えば隋・唐・朝鮮半島などから名詞を中心とした言葉が完全に溶け込んでいる日本語って、もとからピジン言語みたいなものなんですよね。
薬用酒。東京の下町でよく見る陶陶酒デルカップというのが好きで、たまに立ち飲みとかで見つけると飲んじゃいます。香りも口当たりも良いんですよね。生薬独特の匂いはあるけど気にならないし、身体に良い感じがしていいですね。
下町といえば、下町ハイボールがここ数年流行ってますね。B級っぽいところが魅力なんですが作ってる方はB級だとは思わずに作っているので、隙あらば美味しく上品にしていこうとしたくなるのも性。割られる甲類焼酎も品質が良くなっているので、どれも飲みやすく感じます。
秋の七草を楽しめる季節も後半戦ですね。ススキやフジバカマは特に遅くまで楽しめるので良いですね。




