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板谷楓のスイートメイプルタイム 2023年10月20日

 山奥にたたずむちっちゃな村、このはな村のコミュニティラジオ、このはなFM。金曜夜のDJは板谷楓さん。彼女のトークと素敵な音楽で綴る番組の様子を、小説スタイルでお楽しみください(もちろんフィクションなので番組も放送局も実在しません)。

 もっともなんだかんだで、作者が現実の世の中に対して抱いている不平不満を登場人物の名を借りて吐き出してるだけという話もありますが。

 このはな村の設定は、第十部分「板谷楓のスイートメイプルタイム 2023年6月9日」および第十一部分「板谷楓のスイートメイプルタイム 2023年6月16日」の本文にて紹介しています。

 みなさんこんばんは、板谷楓です。

 週末の夜、このはな村役場分署の一階サテライトスタジオから生放送でお送りする番組、板谷楓のスイートメイプルタイム。

 この番組では、このはな村のさまざまな情報と、落ち着いた音楽、そしてわたしのとりとめもない雑談を、ミックスさせてお送りしています。かたい話ではありませんので、どうかリラックスしてお聴きくださいませ。


 先週の土曜日、十月十四日は鉄道の日だったんだそうです。それに合わせて、このはな村に新たな観光スポットが誕生しました。今日は番組の前半で、そちらの模様をお送りします。


 こんにちは。現在は十月十六日月曜日、もうすぐ午後二時です。わたくし板谷は、一昨日の鉄道の日にオープンしました、このはな鉄道ランドに来ています。

 このテーマパークは文字通り、鉄道に関するものを集めたテーマパークですが、鉄道の通っていない村にどうしてこの施設が作られたのか、館長の黒岩莉里衣(りりい)さんにお話を伺います。こんにちは。

「こんにちは」

 土曜日にオープンしたこの施設ですが、とても盛況だったそうですね。

「そうなんです。お陰様で多くのお客様にお越しいただきました」

嬉しいですよね、村にお客さんがたくさん来てくれるのって。わたしも人が多いって噂を聞いて、混雑を避けて取材を月曜にしたんですが、それでもかなりのお客さんが来ています。


 それでですね、説明するまでも無いのですが、こちらはどのような施設なんですか?

「はい、こちらは使われなくなった古い電車などを走らせる、いわゆる保存鉄道というものです」

 保存鉄道! ニュースとかで見たことありますけど、ちっちゃな汽車とかを走らせてるイメージありますよね。

「もともとは、そういうレベルの構想だったんですけど、せっかくやるなら本格的にやろう、それこそ毎日のように乗れるような保存鉄道を目指そうということになりました」

ほおー。ではどんなきっかけで、この計画は始まったんですか?

「そのきっかけとなった車両がこちらにあります。ご案内します」


 というわけで案内していただきました。わたしの目の前には、かわいらしい機関車があります。これは?

「こちらは、かつて浅間山のふもとを走っていた軽便(けいびん)鉄道の機関車です。別荘地と温泉街を結ぶ高原列車として活躍していましたが、昭和四十年代に廃止されてしまいました」

けいびんてつどう……。あ、聞いたことあります。このはな村の近くを走ってたんですよね?

「そうなんです。このはな村からもっとも近いところにある鉄道であり、駅だったんです。もし今も走っていたら便利だったでしょうけど、小さな機関車でコトコト走る列車ではクルマ社会には勝てなかったんです」 

 うーん、地方の鉄道って厳しいですよねー。


 あれ、でもこの機関車って、同じのがありますよね? 駅前、あ、新幹線の停る駅の方ですけど。

「そうですよ。駅前に飾ってある機関車と同じ型のものです。あの辺りが軽便鉄道の駅だったので、廃止されたのちも記念として機関車を置いてあります。そして同じ型の機関車は、その駅前の一台以外すべて解体されたと思われていました。ところが実は個人の土地に保存されていたことが分かったんです」

 へえ〜、でもそれって、鉄道が廃止されてから何年もたってからのことですよね? どういういきさつで見つかったのですか?

「鉄道に出資してくれていた方が沢山いらしたのですが、別荘を村内に持っている方も多かったんです。その中のある方が、思い入れのある鉄道が無くなるのは寂しいということで、解体される予定のものを引き取ったそうなんです。ところがその後、その方は急に亡くなられてしまいました。そこで別荘を相続された親族の方は聞かされていなかったんですね、機関車が別荘の中に置いてあるだなんて。なにぶん急なことでしたから。それでも別荘にあるものは全て譲るという遺言だけはかろうじて残っていたので、要らないとは言えないわけです」

 わあ、それはびっくりしたでしょうね、相続した方も。庭に機関車がドンと置いてあったら。

「いえ、庭じゃないんですよ」

庭じゃないんですか? ちっちゃいと言っても機関車にしてはって話で、結構場所取りますよ?

「ええ。でも、この機関車を置くために別荘を建て増ししたようで、専用のお部屋が別荘の中にできていたんです。なかなか見つからなかったのは、それも一つの理由ではあります。庭に置いたら外からも見えますし」

 えーっ、でもそれ余計びっくりじゃないですかー。

 「でもそのおかげで、保存状態がとても良かったんですよ。ただ新しい別荘のオーナーさんにしてみれば持て余しますよね。だから、どうしたものかといろんな人に相談するうち話が広がって、それは貴重なものだから保存しようという機運が高まって、オーナーさんは手放していいということだったので、それを引き取って保存する団体が立ち上がりました。その後、せっかくだから走られてみたいという声も多くなったので、長い時をかけて、この施設のオープンに至ったんです」


 んー、いい話だなー。それで、この機関車が引っ張る客車に体験乗車できるんですか?

「もちろん出来ます。もう少し待ってると後ろに連結する車両がやって来ますよ」

 ……。

 やってきました、わたしたちの乗る客車が。軽便鉄道というくらいですから機関車も客車も小さいので、大人二人で押してきてくれています。

「一度引き上げて掃除をしたので、綺麗になってますよ」

おお、ありがたい。ゆっくりゆっくり近づいて、機関車に……。


 連結!


 さあやって来ました客車ですが、いや、これは……。


 貨車?


 「はい、貨車です。この機関車が発見されたとき、この貨車も連結されていたんですよ。でも客車はどこにも見当たらないので、どうやらこの状態で受け取って室内に飾っていたようなんです。客車だけ新しく作っても良かったんですが、せっかくなら当時のもので揃えようということになりまして」

はぁ。そのこだわりは分からなくもないですけど、貨車に乗るっていくらなんでもって言いますか……。

「ちょっと抵抗があるのは分かりますけど、乗ってみるとまんざらでもないですよ。てはさっそく、こちらを」

こちら、を、って。

 なんすかこれ。


 というわけで、いよいよ貨車に乗り込みます。が。

 なんでこんなの、お尻に履かなきゃいけないんですか?

「ショックを吸収するためのパッドですね、スノーボードをするときなどに使うものです」

いや、それは分かりますけど、わたしもスノボやりますから。聞きたいのは、そんなに乗り心地悪いの? ってことなんですけど。

「乗ってみればわかりますよ。はいどうぞ」

あ、ありがとうございます。この貨車は無蓋(むがい)車というんだそうです。屋根も壁もなくて、ちょっとした仕切りがあるだけです。その仕切りの一部を切ってドア状にして乗り降り出来るようにしてあります。またいで乗らなくていいので、わたしみたいに足が不自由な人間でも楽に乗れますね。

 中は完全に荷台です。丸太が何本か乗ってます。

「あ、それ、椅子です。丸太を横倒しにしたものの上と下を平らに削って、転がらないし座りやすいようにしています」

あ、失礼しましたー! ついです、つい。貨車で材木を運ぶってありそうじゃないですか。

「ありますよ、この貨車でもそういったことはあったと思います。他にもバラストと言って線路の下にまく砂利とか、線路の下に敷く枕木とかを運んでいたようです」

 あー。それで最後まで残ってたのかな。鉄道として廃止したあとでも、物を運ぶことはありそうですもんね。

「そう、察しがいいですね。おそらく、廃止後に使わなくなった資材や機械などを引き上げるために最後まで残っていたんだと思います」


 お話をうかがっている間に、お客さんが少しずつ集まってきて、貨車改めトロッコ列車? も、満員になりつつあります。もちろんこのはな村は引き続きゼロウィルス運動実施中ですので、距離を空けて着席しています。

 でも、ぱっと見トロッコ列車なんだから、屋根とか後付けすればいいのに、と思うんですけど……。

「いえ、これがセールスポイントなんです」

……と言いますと?

「単にトロッコ列車というと、日本国中あちこちにあるんですよ。このはな村の近くにも、もうありますよね?」

あー、ありますあります。新幹線が開通して廃止された在来線を利用した鉄道パーク、わたしも行きました。

「でしょ? ああいう感じで廃止された路線だったらローカル線だったり、トロッコ列車はたくさん走ってるんですよ。長い距離で、美しい風景を楽しめたりして。ここは距離も短いですから、別の方向で個性を出さないといけないんですね、と話してるうちに発車時刻が来ましたね。では」

では、って、え、ええっ?


 なんと、黒岩さんが機関車の運転席に座ってしまいました。黒岩さんは広報担当だと聞いていたんですが、まさか運転士も務めるだなんてビックリです。

「人手が足りないんですよ」

運転台から話しかけてくれてます。もうすっかり運転士さんです。

 そしてこちらの客車という名の貨車には、車掌さんが乗ってきました。というか、何やってんすか霧積さん。

「ボランティアに決まってるでしょ? このはな村のみならず地域の発展に貢献した鉄道の歴史を後世に伝えるのって、大切なことじゃないですか? だからこうして車掌のボランティアをしつつ、もののついでのすき間時間でほんのちょっと、野菜や果物を販売してるだけです

よお?」

……絶対、叩き売りが主目的だと思う……。霧積優香さんは何度か番組にもお越しくださりましたが、いつのまにかこのはな村の農業宣伝担当みたくなっているので弊局ヘビーリスナーの方々はご存知かと思います。

「こんにちは、霧積優香です。本日は車掌を務めさせていただきます」

はい、お衣装もよーく似合ってますよ。鉄道会社の職員さんのコスプレ。

「コスプレゆーな」

いや、どこの世界にブルーのサテンでミニスカの車掌がいるんですか、コスプレ以外で。

「板谷さーん、発車するから黙ってくださーい?」

 はいはい、黙ります、黙りますよーだ。


 「カランカランカラン」

いま、車掌が貨車に据え付けられた鐘を鳴らし、出発を知らせています。

「扉ヨシ! 客席ヨシ!」

「扉ヨシ客席ヨシ了解! 計器ヨシ、発車準備ヨシ!」

「了解。発車します。揺れますのでご注意ください」

「前方ヨシ! 発車!」

「ガタン。ゴォォォォ」

発車しました。モーターの重低音が響きます。小声で話しますので、走行音をお楽しみください。

「オォォォォ、ガタン!」

わーっ!

「ゴトン」

ひゃっ!


 「お客様、お静かにしてください?」

いやいや、なんすか今のお尻にドスンと来るやつ。声出ちゃいますって。

「だからお尻パッド付けるんでしょ? 列車はどれもレールのつなぎ目でガタンゴトンと揺れるんですよ。客車の場合サスペンション、つまりその衝撃をやわらげるものが付いてるんですが、貨車はそういうのいらないので。もともと人が乗るものではないですから」

ええー、でもこの貨車は今は人が乗るわけだからちょっとは改造を、

「ガタン、ゴトン」

ひいぃぃっ! いやこれもう少し乗り心地をですね、

「ノンノン、これが売りなんです。使われていたそのまんまの姿で走らせるというのが」

「ガタン、ゴトン」

「おっとっと。揺れもすごいですね。こういうとこもリアルでいいんですよ」

そ、そうかなあ。


 つーか、寒い! スピード上がると風が冷たいです! あのっ、このはな村で吹きっさらしは辛いでしょ!

「それが良いんだってば、だからあ。トロッコ列車は基本こうやって外気に触れたまま走るものですから」

そ、そうなんですか?

「ま、冬だけアクリル板つけたり、運休するところもありますけど」

……対策してるんじゃないですか、他のところは。

「だから、それをしないのがポイントなんです。ついでに言うと、屋根もあえて付けてないんで」

ええーっ? 雨降ったらどうするんですか!

「大丈夫、レインウェアを無料で貸し出しします」

んー、お尻パッドといい、不快なところは乗り物じゃなくて人間の方に工夫するってのは、このはな村らしいっちゃあらしいんだけど……。


 到着、しました。ホントにわずかな距離だし、スピードが出てるように見えて実はそんなでもないし、風を感じるから速さの感覚が増すんでしょうね、でも、なかなか面白い体験だったと思います。

「車掌より補足いたします。板谷さんは、原稿思いっきり読んでます」

黙ってれば分かんないのにー、ラジオだからー。でもお尻痛いもーん。

 んで優香さん、あ、黒岩さんも運転席から降りてきてくださいました、今後こちらの鉄道はどのように展開していくのですか?

「はい、まず、このはな鉄道ランドは今月いっぱい無休です。その後は土日祝日を中心に、朝十時から十七時まで営業します。平日は不定期営業となりますので、営業日はサイトにてご確認願います。営業時間中は、こちらの列車に随時乗車できます。入場料は大人二百円、小人百円ですが、高齢者、障害者割引等各種ございます」

 今後、乗れる車両は増えていくんですか?

「はい。すでにさまざまな地域から使わなくなった車両を集めておりますので、随時このはなFMのほうでもお知らせできるかと思います」

はい、よろしくお願いします。

 本日は、ありがとうございました!


 というわけで、このはな鉄道ランドの様子でした。今日も盛況だったようで、良かったです。

 それで今日の食レポですが、十月のイベントといえばハロウィンもありますね。このはな村のハロウィンはもちろん本格的な海外のスタイルなんですが、そこに日本の文化が加わって、このはな村独特の慣習もあります。


 そしてその結果、このはな村のハロウィンで食べられるのが、


 おはぎでーす!


 なんでおはぎ? ってお思いかとは思いますが、ハロウィンはあの世とこの世が繋がる日、と言われているんですね。それはつまり、仏教でいうお彼岸やお盆と同じなのでは? ということで、だったらお彼岸同様おはぎを食べよう、ということになったんだそうです。

 ちなみにこのおはぎ、ハロインおはぎと呼ばれています。ハロ、「イ」ンです。まだハロウィンの習慣が日本でマイナーだった頃に、村の人々が耳で聞いたままの表記をしたんですね。


 では早速いただきます。

 んん〜! あんこが甘くて、でも上品で。中のご飯もちょうどいい半殺しですね。あ、半殺しというのはお米とお餅の中間くらいの、もちもちなんだけどご飯の粒がちょっと残ってて、歯触りが独特なんですねー。

 このはな村でも、お彼岸のおはぎも食べますけど、そこで残った小豆を再利用するというSDGs的な慣習でもあるんですね。特に年配の方はこのハロインおはぎ、よく食べます。

 あっ、当たった! あのですね、せっかくハロインなんだからそれにちなんだ材料も入れようよ、ということで、ランダムにかぼちゃのあんこが入ってるんです。

 もちろん外がかぼちゃあんの、おはぎもありますよ。あとトリックオアトリートと言って子どもが家々を訪れるとかの習慣もさかんです。パレードはここ数年やってませんけど、それでも十分楽しめる、このはな村のハロインだと思います。


 板谷楓のスイートメイプルタイム、お開きの時間が迫ってまいりました。

 このはな鉄道ランドの感想をSNSとかで来場された方々が色々書いて下さってまして、やっぱり、昔のまんまというのが受けてるみたいですね。これからもそういったところを残しつつサービス拡大していくそうなので、期待して待ちたいです。


 来週は月最後の金曜日、プレミアムフライデーなので番組はお休みです。皆様それぞれ、楽しい週末をお楽しみください。

 お相手は板谷楓でした。

 それではまた次回、ごきげんよう。

 浅間山の麓を走る軽便鉄道といえば、分かる方には分かるかと思います、モデルが。

 ちなみに軽便鉄道は「けいべんてつどう」と読むことの方が多いと思いますが、「けいびんてつどう」でも間違いではないようです。地域によっては後者で呼ぶみたいで、筆者の父もそう呼んでいました。


 軽便鉄道の特徴は、なんといってもレール幅の狭さと、それによる車両の小ささですね。七一六ミリ、すなわち七十二センチに満たない幅の鉄道は、現在かなり少なくなっていますが旅客営業しているところも幾つかあり、独特の風情が感じられます。

 浅間山のふもとをコトコトゆっくり走る列車がもし今残っていたら、車が国道ばかりか町中に溢れかえる夏の大渋滞も少しは変わっていたかもしれません。


 作中でも触れていましたが、このはな鉄道ランドの規模は拡大中ですので、今後もまた登場する予定です。


 来週はこちらの更新はお休み、別の小説を上梓する予定です。

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