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帰り道は部長の車ではなく、先輩と歩いて行くこととなった。どこかにいくとは言っても何かしらの料理店に行くだとかそういう話ではなく、ちょっとコンビニに行こうみたいな話だった。買い物の頻度の都合上財布の中身は殆どイノリに預けていた状態だったので、自分の分もギリギリだとか、あまつさえ借金をしてしまうとかいう話にならずに済んで良かった。
「君はさ、なんていうか。部長とかとは違う方向で変わってるよね」
「それは先輩もでは?」
「はは、違いないや。けれどもね、私の身体が普通の人間じゃないっていうことがわかった後でも普通に接してくれるのはとても有難いんだよ。親族だって慣れるまでは……っていう感じであったし」
……うん? 先輩の言っていることが、何かおかしいような気がするが。ペットボトルから緑茶を飲みながら考える。が、違和感の正体がわからない。
「そりゃまあ、部活の仲間でバイト先も同じで……それに入学した頃には友人だと言ってもらえましたし。何か嫌なことをされたわけでもないですから、先輩を遠ざけるような理由ってないですよね?」
「例えばだけど。大型犬が苦手な人は、大型犬を飼っている人から距離を取ろうと考えたりするものなんだよ。そういうのが苦手な人が、私のような『大型犬そのもの』みたいな存在と距離を取ろうとするのはよくあることだろう?」
「わからなくは、ないですけれども……でも、先輩は先輩ですし」
「君や部長みたいに、偏見がなく見てくれる友人は貴重だよ、ホント。一生秘密を一人で抱えていくなんて土台無理な話なのさ。部長はもしかしたら、私と似たような境遇の知り合いはいるかもしれないけれども、その人と私が感情を共有できるかは分からないし」
先輩は、俺の返事を待たずに続ける。……俺の反応を気にせずに、続ける。
「暫くの間君の反応を見てなんとなく思ったけれど、覚えていないんだろうね? あんまりに昔のことだったから、夢だったとか単純に覚えていないとか……まあ、いろいろ予想はつくけれども。だから、君が思い出したくなるように。少しだけ呪いの言葉をあげる。……ああ、部長みたいに本物の呪いをかけるわけじゃない。ただの心理的なそれ……君の優しさにつけ込んで、私のことを今までよりも多く考えさせてやろうっていう魂胆さ」
先輩は俺の顎に指先を当てて、自分の顔の方を向かせる。優しくも気迫のあるその表情から目がそらせなくなる。
「小学校に上る前に、君にかけてもらった言葉。あれは今でも私にとって、何にも替えられない大切な宝物なんだよ」
そういうと先輩はやれやれと言わんばかりに後ろへ振り返り、両手を軽く上げた。
俺は一体、何を忘れているのだろうか。
作者は書こうと思った内容を忘れがち。
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