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生きがい

「あの子が君のことを好きなのは知っている。君だってそれなりに悪くは思っていない……というか、かなり好意的に考えているはずだ。でもね、前にも言ったかもしれないけれど私だって君のことを結構気に入っているんだ」


 先輩に好かれるような何かをしただろうか。思い当たるフシはないのだけれども……先輩は、話を続ける。


「その様子だと、何が理由で私が好いているかはわかっていないみたいだけど、まあこれは私の想いだから。成就するにしろ完全に諦めるにしろ、どっちにしたって恥ずかしいからこのまま墓にまで持っていくつもりだよ。とまあ、それを除いたとしても君は獣帯に好かれやすい性質だとは思うけれど」


 普通の人間の異性からはむしろ好かれないんじゃないかな、と部長が口を挟んできた。悲しくなってくるからやめてほしいんだけれども。というか、部長がそういうことを言うとなぜだか説得力みたいなものがある。……『預言』されていて、それが理由である説得力だったりしたら嫌だな。


「まあ、ともかく。私にはあの子と同じように、君を守るだけの力がある。他の獣帯から、妖魔から、怪奇から、守れる。想いだって負けていない、つもりでいる」


 先輩はさっきまで札を作っていた筆をこちらに向け、空中に何かを書くように、描くようにくるくると回している。


「べつに私が選ばれないというのなら、それはそのとき。私としては、どちらの選択肢であったとしても選ばれるまでは……うん、こうして言いたいし、選ばれなかったとしてもそばにいたい。という感じだよ」


 先輩が操る筆の先端と視線が、こちらを捉えているかのように動かない。


「俺は……いや、僕は……」


 言葉に悩む。マツリやイノリと一緒にいるのだから、すっぱりと断ってしまえという考えと、学校での恩もいくらかある先輩に対して、そんなに無下にするような態度を取ってしまっていいのかという食い違った考えが脳内に巡る。


「君が悩んでいるっていうこともわかってる。きっとそれに関して漬け込んでいるような状態になっていることも……まあ、なんて言えば良いんだろう? 君に何を言われても……悪い答えをもらったとしても、君を諦めるようなことはできないだろうっていうのは自分で思っている」


 先輩は蜘蛛の腕を伸ばし、鉤爪状になっている指をコキコキと鳴らしている。


「はー、面倒なことは考えたくないんだけれどもね、まだ学生、されどもう学業に専念できる時間もあんまりない。ここに就職すれば就活は考えないで良いんだろうけれども、上司が恐ろしいからね」


 先輩は部長の方を見ながら言う。その言葉は真に迫っていて、ちょっと笑えるような雰囲気ではなかった。


「まあ、アレだ。私としてはこの体のことも相談できる人が少ない……肉体的には人外だけど、精神としてはほぼ人間。理解がある人がそばにいると嬉しいのさ」


 先輩の表情から目をそらしてしまったのでそれを伺うことはできなかった。


「まあ、アレだ。今日こそどこかに一緒に行こう?」


 色々言われた後だから、さすがに断ることはできなかった。

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