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扱い

 イノリが俺の胸元に顔を押し付ける。硬いと言われてしまった手前あまり面白いものではないとも思うのだけれども。


「んっ……なんだろう、癖になりそう」


 イノリはそこで鼻を鳴らし、寝ている間にかいていたであろう汗の匂いを嗅いでいる。なんというか、非常に気になるのだが。仕方ないので、抱きしめる力を少し強くして押し付けるようにしてみる。


「こういう感じに匂いを嗅ぐような状況になるなんて、想像はできないだろう?」


 普段のお返し、と言うつもりでからかうように囁き返し、これが現実であると教えてやる。そもそもせっかく3人でいて、近くに妖精も魔神も出現していないし、バイトの時間もまだ先、学業に関しても問題ない。ならば、何かしらを心配して怖がる必要もないのだ。


「あは、なにそれ……まあ、ここまで濃い瞬間が夢であるはず……ないわ?」


 イノリが胸元から此方の表情を見上げるようにして、緩やかに笑いかける。身体の向きをずらし上を向いて、マツリの方にもそれを向ける。


「2人とも、心配かけちゃってごめんなさい? それから、改めてありがとう。なんというか……うん、なんて言えばいいんだろう?」


「いいんですよ、イノリ。私達は家族ですから。そのあたりのことは言いっこなし、ということでいいですね?」


 マツリはイノリの返事を待つことなく、そもまま一切の遠慮がない感じに抱きしめている。


「ちょ、くるし……」


 イノリがマツリの背中をぺちぺちと叩くが、そんなことはお構いなしという具合に抱きしめている。ついでなので、俺も背後から抱きしめてやる。イノリはそのままもぞもぞと動いていたが、少しも身動きが取れないということに気づくと顔を隠すかのように下の方を向いてしまった。


 マツリはイノリと一緒似俺の方にまで手を伸ばしてきて、俺の横腹をがしっと捕まえてきた。


「うん、このままでは逃げることができないなぁ?」


 マツリの意図をなんとなく察して、俺もマツリとイノリをまとめて抱きしめるために腕をのばした。イノリは数分前までの俺がそうだったかのように、2人分の身体と力に挟まれてどうしようもない状態になってしまっている。


 イノリは緊張しているのか、それとも呆れているのだろうか。この位置からは表情を伺い知ることは出来ないが、マツリからは僅かに見えているのだろうか、にやにやとした笑みを浮かべている。


 こっちから見えないといえば、2人の胸同士が思いっきり押しつぶされているんだよな……と不埒な妄想をしてしまった。


「まあ、実際そうなっているんですけれどもね?」


 念話を通じて思考を読まれるということを完全に忘れていた。マツリの俺を掴む手付きが、やらしいものに変わった気がした。……なるほど?

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