緩い
「ご主人、起きるつもりはないの?」
イノリが小さな声で此方に問いかけてくる。マツリを起こさないようにするためであろうか。
「まあ、2人に拘束されちゃってるし。起きようにも起きられない……かな?」
「じゃあ、私とマツリが手を離したらそのまま起きちゃう?」
イノリの声は、普段の楽しげなそれではなく、少しの不安と緊張を抱えているかのように、僅かに震えていた。
「なんか、今更ちょっと怖くなってきちゃった。今これが走馬灯や消える直前の都合のいい夢だったりするんじゃないか、って少し考えたら、」
「大丈夫、大丈夫だ。イノリが感じている俺とマツリの体温は本物だし、それに……もし本当に都合のいい夢ならば、そんなふうに恐怖を感じることも無いはず」
実際に死にかけた体験は今の所ないので、本当にそうかはわからないけれども。少なくともいまこうしているという事実は、夢ではない、妄想ではない、と教えてやらないといけない。
「それでも心配なら……そうだなぁ、イノリが夢にも思わないことをやってあげればいいんじゃないか?」
「ん……まあ確かに……いやでも、それも私の夢だったら……」
「そんなに心配なら……そうだな、マツリ。もう起きてるよな?」
「はい。少しばかり休憩させてもらっていましたが、もうしっかりと」
「じゃあ、ちょっとやってしまうか」
「え、ちょっと」
マツリはこちらの意図を汲んで腕を離してくれた。開放された手を動かし、を掴んでいるイノリの手を掴み返し、そのまま抱きしめて、
「よっ……と」
「え、うわっ」
抱きかかえ、俺とイノリの位置を入れ替える。イノリの身体は式神なので、重さというものが殆どない。マツリの方は見た目を人型にごまかしている部分があるので、ちょっとうっかりしたらとんでもない重量になることもあるのだが。
まあそれはともかく、マツリと一緒になって、挟むようにイノリを抱きしめる。
「ちょ、これ……えっ」
「イノリが前に言ってたような気がしたが……記憶違いじゃあないよな?」
「私は聞いたような聞いていないような……どうでしたっけ?」
俺は確認するためにそう言ったが、マツリの方はイノリに言わせるために、からかうような言い方で問いかけている。マツリにとっていじる対象というのは俺とイノリの両方である、というのがよく分かる構図である。
「……」
イノリは小さくうなずくだけで、腕を抱き込むようにして、それから俺の胸元に甘えるようにスリついてきた。
「ちょっと硬いね……?」
まあ2人のとんでもなく大きなそれに比べたら筋肉質だし硬いと思うけれども。
朝はまだ終わらない。
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