按配
部長には今日のバイトは休む旨を伝えた。正直なところ部長のことだから察しているし気付いているんだろうけれども、それはそれだ。
ということで、必要な準備は終わらせた。
まずはイノリが、イノリ自身の意識を保存するための式神を用意。
「結構余裕をもたせておかないと、窮屈に感じたりしそうなのよね」
その割には装飾にこだわっていたような気もするが。機能としては情報の保存と保護に特化しているため、自発的な行動は何もしない。できないというのが正しいだろうか。
それからもう1つ。イノリの新しい身体になる式神。こちらは意識を移すときに同時に成立させなければならないため、直前まで準備状態にしておき、マツリと息を合わせて行動する必要がある。
材料に俺の血液、マツリの髪などを使い、式神として起動する前から鼓動させておく。物理的に振動しているわけではないけれども、目を向けているだけで胸元に触っている時のような感覚になる。
「胸元ばっかり見て、えっちじゃない? 終わったら直接触らせてあげるのに」
「あらあら、ご主人はもう終わらせた後のことをたのしみにしているのですね? ならば仕方ありません、イノリ、さっさと終わらせちゃいましょう」
「そうね、そうしちゃいましょう。ご主人、反論なら後からいくらでも聞いてあげるから待ってるわ」
俺が止める前に、イノリは手を振ってから式神に意識を移した。身体はくたり、と眠るかのように力を抜き、そのまま式神の素体の状態に戻った。
「やれやれ、世話の焼ける子です。始めるとしますか」
マツリはその素体から文字列や記号ではない部分を外し、3割程度を記憶式神の方に、残りの方を移動先の素体の方に、術の糸で縫い付けるように結びつけた。
「あとはご主人、お願いしますね? 失敗しても怒ったりはしませんが……そうなったら、私はとても悲しいですから」
「安心してくれよ、失敗するつもりはない。失敗してしまったら、どれだけ怒られるか」
そう、イノリは俺にとっても大事な存在だ。失敗したら、自分のことを許せないだろう。3人でいろいろ遊んだり、他愛ない話をしたり、セクハラみたいなことをされたり。……それから、あとは学校に行って、先輩にからかわれたり、部長の無茶振りに踊らされたり。
そうやって過ごすことが、俺にとっての今の日常なのだ。のんびりと平穏に過ごすために、2人と一緒にいることは俺にとって必須で。
その中の風景には、やはりイノリは必要不可欠なのだ。
そして。
俺とイノリは意識をあわせ……そして、始めた。
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