語り合い
望む回答は得られなかった。先延ばしにする手段はあるとはいえ、将来的なことを考えると危険ではあるのだろう。
「なら、どうする……? 俺に一体、何ができるんだ?」
先輩にも部長にも、イノリのことは話せない。もしかしたら気付いている可能性は否定できないが……というか部長の方は察している可能性は十分にあるが、それでも話さないつもりだった。
正直に言ってしまうべきだろうか。そうしたら案外部長の方は解答をくれそうであるが。
「ああそうだ、きみ。もし何かしら秘密にしていることがあるのなら、秘密のままにしておくべきだよ。相手が気付いていたとしても、『もしかしたら他にも秘密があるのかもしれない』と思わせることは重要だからね」
釘を刺されてしまった。ということはまあ、こちらに教えるなということ、それから教えるつもりはないということ。あとは……たぶん気付いているのだろう。自分で解答を得ろということだ。
先輩の方を見やる。休憩時間ということで仮眠をとっているのだが、まあなかなか大きないびきだ。人の腕と蜘蛛の腕2対をそれぞれで腕を組むようにしている。いびきとは言えないような音量の鼻息が聞こえて、なんだかすこし可愛らしいと思ってしまう。マツリ達に遭遇する前に告白されていたら、その勢いに乗せられて応えてしまったかもしれない。
「部長は一体なにと戦っているんですか」
自分の中で意識を変えるために、部長に問いかける。
「俺の……うーん、これは違うな。『私』の生活の平穏を脅かす何かと。学校生活を楽しく送ることができて、そのために障害になるようななにかだったり、後輩達にまとわりつく蜂とかの毒蟲達を追い払ったりだね」
「なんで蜂だけ強調しているんですか」
「いやー、最近余計なことをしてくれた蜂がいてね。この近くに巣を作ろうとしてて」
「あー……それってスズメバチとかですか? だったら厄介ですね。バイト先や部室にそういうのがいたら結構大変かもしれません」
「ん? ああ、いや……まあいいか。詳しく確認していないから、スズメバチじゃないかも。確認する前にぶちのめしちゃったし」
「……刺されたりはしなかったんですか?」
「俺を誰だと思っているんだい。少なくとも現代では最強の呪術士だと思ってるよ」
「現代に呪術士がそもそもほとんどいないような気がするんですけども」
「まあ人間なら数えるほどしかいないだろうね。でも獣帯には結構いると思うよ。それを含めても、俺は最強の呪術士だ」
「……狐とかそういうやつを含めてですか?」
狐に知り合いがいるわけではないけれども……というか術を使いそうな獣なんて他には知らないけれども、なんとなくそんなふうに聞いてみる。
「あいつらは妖術使いだからね、呪術とは畑が違うのさ。あいつらは呪術士じゃないから、俺より強かったとしても俺が最強の呪術士であるっていうことにはなんの問題もないのさ」
「すっごい屁理屈を聞いたような気がします」
「気の所為さ。ほら、そろそろ休憩時間は終わり。蜘蛛子ちゃんを起こしてあげて。キスでもしてやればきっと喜んでくれると思うよ?」
「やりませんから」
「おや……してくれてもあの子には黙っているつもりだったんだけど」
「起きてたんですか先輩。でもやりませんよ」
「残念だ」
そしてバイトは再開される。
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