戸惑い
「式神の寿命を後から伸ばす方法?」
ついでということで部長のところでバイトの時に聞くことにした。
「うーん、普通の式神だったら……そうだなぁ、適切なチカラを流し込んでやればいい。呪術で作ったのなら呪力、魔術で作ったのなら魔力、妖術で作ったのなら妖力。数時間から数日の寿命しかない式神ならば、定期的に注いでやれば、循環機能が壊れるまではうまいこと動いてくれる。とは言っても、労力としては作り直したほうが良いだろうし、式神なんてそれこそ使い捨てにするため……人間や獣帯が普通に踏み込んだ場合に代わりに行かせるためのものだよ?」
部長はそこまでを一息で言うと、こちらの手元を見て追記するように言う。
「役目を終えた式神をいつまでも維持しているのはコスト的にも良くないし、ぼろぼろになった式神を使おうとしたところで、それは疲労困憊した人間を派遣するようなものだからね。失敗の可能性も高くなる」
先輩は机のペン立てからボールペンを取ると、布に不思議な模様を描く。それから指を打ち鳴らすと、それは先輩の影を思わせるような姿をした、直立する布になった。
「こいつは今作った布式神。設定では30秒で自壊……まあ言ってしまうと、ただの布に戻るようにしてある」
先輩の説明が終わるかどうかのタイミングでそれは崩れ落ちるように膝を曲げ胴体を曲げ、あっという間に元の布切れに戻った。
「これを見て欲しい。ここのところ、右端と左端で同じものを描いていたんだけれども、形が変わってるだろう?」
うーん、ちょっと見ただけではわからない……いや、かなり注視しないとわからないような違いである。が、たしかに違っている。
「これは部長がわざとそうした訳ではなく?」
「ああ、これは短い時間でこれだけ術式を消費した……と考えてくれていい。次に、これをもう一度起動する」
軽い説明のあと、部長は指をもう一度鳴らす。
準備に少し時間がかかるような挙動の後、同じように直立した。
「ここにチカラを注ぐ。すると、長持ちする。けれど」
2分後、再びそれは崩れる。もう一度見せてもらうと、今度は明らかにわかるほどに、術の模様が変わっていた。
「本来の寿命よりも伸ばせば伸ばすほど、歪みは発生していく。元々の設定が長いものならば、延長時間が長くなっても歪みは小さいけれども、負担がないというわけじゃない」
「もし術式の全てが歪んでしまったら?」
「大抵の場合はそれまでに自壊してしまうけれども……そうだね、命令も聞かず指示も効かず、本来の動作とは関係ないような行動を取るだろうね。その時は本当に破壊するしかない。自分の手でね?」
部長は再び布の式神を起動させる。それはペンを握り部長に突き刺そうとしたが、部長の指振り1つで両腕も両足も切断された。
「これは意図的に歪めた術式で攻撃させてみたんだけど、こういうことになる。式神を最初の予定以上に長持ちさせようとしてはいけないよ?」
「後から追加の作業が入って、必要時間が増えてもですか?」
「そうだ。その時は新しいのを作ったほうがいい。自我を持たない式神には、愛着なんて持ったりしたらいけないんだからさ」
部長のからの返答は、決して優しいものではなかった。
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