怖い
「……え、はっ、また寝てた?」
イノリは飛び起きる。一体何時頃から寝ていたのだろうか。帰宅道中にあったトラブルの時に起こされたのは憶えているが、その最中の記憶は夢の中だったかのように曖昧である。
「あ、ご主人……あ、抱きしめてもらってたのかな……」
カーテンの隙間から覗く窓から見える風景はまだ暗く、ご主人やマツリが眠っているのならば起こさないようにするのが良いだろうと考え、イノリは少しばかり小さな声で呟いた。
「あー、起きてたら沢山抱きしめて貰えたのかなぁ、ちょっともったいないことしたかもなぁ」
腕枕をしてくれている腕の位置をずらし、抱き枕のような扱いにしてしまう。
「やっぱり好きだなぁ……うん、あんまり迷惑かけられないかな」
エネルギーを補給するために、その腕に思い切り抱きつく。
「ん、イノリ……起きました?」
「マツリ……うん、起きた。どういう理由で落ちてたのかも、なんとなく把握してる」
エネルギー不足……まあ、私の場合は『ご主人成分の補給』というのは、あんまり冗談とは言えないのだ。マツリの方だって同じ方法でエネルギー補充はできるが、私と違って生命維持に必要な分は食事で回収できる。ご主人の食事にマツリが拘っていたのは、ご主人のためが8割、私への供給目的が2割といったところだろう。
「イノリ、もう活動限界だったりするのかしら」
「うーん、流石にまだ余裕はあると信じたいかなぁ。2人からも材料貰ってるし、ほぼ毎日ご主人から供給して貰ってたしね」
「それでも、1日遊んでいただけでダウンしちゃったでしょう? 買い物に行った時には、そんなコトなかったのに」
「まあ、少し消費が早くなってるかなーっていう気はするかも。だけども、そんなにすぐにおしまいになっちゃうっていうことはないと思う」
正直なところわからないけれども。私は本来が式神である以上、獣帯としての性質を手に入れたとはいえ、寿命はとんでもなく短いのだ。
「うん、無くしちゃうのは惜しいなぁ……」
思い出も記憶も、私だけのものなのだ。もし新しく式神を作り直しても、私という存在にはならない。とんでもない技量の持ち主に私のコトを調べさせるか、何らかの方法で私が滅ぶことを回避するか。
ご主人やマツリのいう『部長』とやらが私のことを調べれば何かしらの方法はあるかもしれないけれども、私はその人や『先輩』には隠し玉のようなものだ。バレている可能性は無きにしもあらずだが、積極的に存在を明かすものではない。それこそ、私の活動限界に近づいてどうにも出来ない時に取りうる、最後の手段だろうか。
そこまで考えて、私は思い至った。
「そっか、私消えてなくなるのが怖いんだ」
護衛の役割なのに変なの、と息を吐き、ご主人に抱きついた。
マツリが後ろから抱きついてきてくれた。ぬくもりが嬉しかった。
朝はまだ遠い。
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