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「……ご主人、なんだかおかしくないですか?」


 イノリの声が聞こえる。電車の進む音が、ガタンガタン、と聞こえてくる。


 電車は速度を落とすことなく、あるいは加速することもなくずっとずっと、音が響く。


 周囲を見渡す。この車両にも隣の車両にも、誰もいない。


「え、あ……これ、どういうことだよ」


 数分前まで、人は少なかったものの車両の中にはいたはずだ。そして、先程から電車は止まっていない……他の人達が消えてしまったみたいだ。


「あるいは、私たちがどこかに閉じ込められているか、でしょうか」


 マツリがイノリにキスをしてエネルギーを注入する。唾液を流し込むかのように舌を絡めて、遠慮なく起こしてしまう。


「……と、ちょっと、起きてるからっ……」


 イノリが呻くようにそう言い、マツリの背中をぺちぺちと叩く。


「と、流石に苦しいのだけれども……と、状況がよろしくないのね」


「うん、俺たち以外がどこかに行ったか、俺たちがどうにかされたか。どっちにしても、解決しないと帰れなさそうだ」


「ふぅーむ……まあ多分、私たちがどこかしらに隔離されてる可能性が高いんじゃないかなぁ、やり方はわからないけれども、そっちのほうが労力はかからないだろうし」


「やったことがわからなくても抜け出せればそれでいいのですが……もし封じ込められているならば、どこかに核みたいなのがあるはず」


「うーん、このあたりというかこの車両の中にあってもおかしくないのよね……どこかしら」


「ご主人、行きには持っていなかったものとかあります? 例えばハンカチだとか、あるいはメモ帳とか……なにかが書き込めそうなものが起点になっていると思います。はじめからなにかが書いてあるような、例えば紙幣とかではないはずですが」


 少し時間をかけて探したが、3人の荷物にそれっぽいものはなかった。


「となると電車のどこかに何かしら書かれてたりするのか? 外側だとちょっと厄介なことになりそうだが」


 窓を開けると、突風が吹いてくる。風景の変化こそないが、電車は進んだ状態を維持しているのだろう。落ちれば大怪我では済まないかもしれない。


「まあそのあたりは任せてください。とりあえず内側の調査が先ですよ」


 電車の車両は全てが再現されているのだろうか。正直なところ、壁や床に『書き込み』があったらどんなに楽かと思ったが、話はそううまくないようだ。


「というか。誰かしらにこういうことをされるような理由がわからないんだよな」


「妖精が減って魔神が増えた揺らぎで、なにかしらおかしなことが起きているのかもしれないですね。これが仮に何かしらの術だったとしたら、誰か術者が居ると考えるよりも、魔神が発生していると考えたほうが可能性は高いです」


「誰かが魔神を操っているとか、契約しているとかそのあたりの可能性は否定できないけれどもね。ということで、さっさと抜け出すために探しましょ」


 車両内部を手分けして探す。壁にも窓にも見つからない……と思っていたが。


「なあ、広告の裏側って確認していないよな?」


「ああ、たしかに……」


 元いた車両の車内広告を捲って確認したところ、15枚目と16枚目に跨って奇妙な紋様が描かれていた。


「あったあった。ご主人、お手柄じゃない」


 もとの座席につき、その広告を燃やしてやった。一瞬頭痛のような感覚が走り、視界が歪み……そして、電車の中と、窓から見える風景が元に戻った。

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