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用心深い(裏)

 あんなのがいるなんて聞いていない。下調べの段階ではどこからもあれの情報が出てこなかった。調査でも聞き込みでも、だ。だから対策なんてなかった。


 そもそもあんなのが居るなんて……あれが人間だろうと獣帯であろうと、妖精魔神その他の怪異何かしらであろうと、あんな存在がいる場所で行動を起こすはずがない。正真正銘の怪物である。


 操っていた猫どもは全部潰された。9つの残りから蘇生しても即座に丁寧に命を奪われ、避難措置である操縦解除も効かず、操っていた俺自身に対しても痛みが来るほどだった。


「くそ、くそ、くそっ……!なんなんだあれは……!」


 猫の命や魂を使い込んで固めた魔神は潰された。数週間の労力は、ヤツの指先の小さな動きにすら叶わなかった。鋼鉄のように固めたはずのそのチカラは、まるで水流のように俺の肢から溢れてなくなり、欠片を掴むことすらできなかった。


「なにが『危険物はなくそう』だ、お前の方がよっぽど危険だろうが……!」


 猫を使った渾身の一撃はすべて潰され、俺自身が逃げるために使った毒も無力化された。


 勝てない。しかし逃げるだけのチカラすら残っていない。どこか安全な場所に隠れなければならない。


 今の俺は獣帯としての姿を保ち続けることすらできない。が、逃げる前に隠れる程度ならば、逆にこちらのほうが良いかもしれない。


「どうにかして、報復を……いや、それより先に体制を……」


 冷静ではなかった。戦闘のために大型化していたが、右肢はすべて捻り切るように奪われ、翅はすべて焼け焦げて穴だらけ。触角も狂わされ普段の半分程度も性能が出ていないだろう。腹には大穴が空き、問題なく使えるのは複眼としての機能だ。それも痛みを堪える必要がある。


こんな状態でも生きているのは、猫どもの命で補填できたからだ。しばらくは治らないだろうが、致命傷ではなくなった。時間さえあればどうにかなるのだ。


「焦るな、焦るんじゃあない……」


 こんな目に合わせた人間の姿を思い浮かべるだけで怒りが湧き上がるが、それどころではないのだ。


 遠くに逃げるか、あるいは再び打って出るか。いずれにしても時間を掛ける必要がある。


「どこか、どこか……どこがいい?」


 結界を作り上げるような時間もチカラもない。チカラが残っていたならば、そのぶんでも遠くに離れたほうがいいし、作ったところで場所がバレてしまうだろう。


 そう考えたところで、とある家に妖精よけの結界が張られているのを見つけた。3重構造になっていて、中に隠れれば外から見つかることも無いだろう。


 家主達が外に出る瞬間を狙って扉の隙間から入り込む。これだけの結界があるのになぜ外に出る必要があるのかはわからないが、ちょうどいい、間借りさせてもらおう。結界を3つも張れるというのはそれなりの術者でもあるようだし、タイミングを見計らって俺の子分にしてやってもいいし、食料にするのも良さそうだ。


 鍵が閉まる音が聞こえる。ようやく一息つけそうだ……と考えたところで、部屋の中央からなにかの音が聞こえた。


 そしてそこにある缶のようなものから噴き出される殺虫剤。


「オイ嘘だろっ……!」


 どこの窓にも隙間はない。ぶちのめされて死に体の俺の身体は、それこそなにも知らないムシどもとほとんど変わらない、少しマシな程度の耐久性しかない。殺虫剤なんて喰らえば、そのまま死んでしまう。


 結界なんて張っている家に入るんじゃなかった。窓はどこも鍵がかかっているし開けることができない。結界を破ることもできない。どこか逃げられる場所は……?


 逃げ込んだ先で逃げる場所を探すなんていうことをする前に、身体が動かなくなった。


 臓器が液体のように砕けていく感覚が走る。全身の痛みが止まらず、視界もぼやける。逃げる方向もわからず、ただ殺虫剤のガスが噴き出てくる音だけが鮮明に耳に届いた。それでも、まだ死ねない……どれほど時間がかかるかはわからないが、家主共が帰ってくれば、可能性はなくも……




「いやー、籠もるんですから害虫駆除は必須ですよねぇ」


「いつの間にあんなもの買ってたのよ」


「買ったのは結構前だけれど……イノリ、新聞紙構えてどうした? ゴキブリでもいたか?」


「いや、ここにハチがいるから。ご主人が刺されたらちょっと面倒そうだし、徹底的に潰しておかないとね」


 そして振り下ろされる、丸めた新聞紙による8度の殴打。無言というか、マツリもイノリも怒っているような表情で叩く相手を見ている。


「いや容赦なさすぎだろ。新聞紙をシート代わりにしておいて良かったよ」


「まあまあ、とりあえずこれで当面の危機も回避できそうだし?」


「ハチくらいで大げさだなぁ……いや、病院に行かなくて済むって考えたら大げさでもないか。ありがとな、イノリ」


「ふふん、もっと褒めていいのよ」


「私だって撫でてほしいんですけど!」




 忍び込んだハチは、なにか抵抗する機会すらなく。ただの害虫としての攻撃すらできずに命を散らした。

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