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思い

「ご主人、ちょっと汗っぽくない?」


「いきなりどうしてそんなことを言ってくれるんだイノリ」


「ほら、こことか汗で湿気った感じになってる」


「変態みたいだからやめなさい」


「はーい」


 とは言うものの、イノリはその場所を触ったり撫でたりするのをやめない。ついでに匂いを嗅いだりしている。どうして……。イノリに影響されてか、マツリも後頭部の匂いをかぎ始めてしまった。うちの子たちは変態しかいなかった。


「はー……じゃあ、」


 イノリがそう呟いたところで、玄関の呼び鈴が鳴らされた。


「……居留守使っちゃいます?」


「いや、そういう訳にもいかないんじゃないか?」


「私はこのままご主人にくっついていたいから、ちょっと出迎えたくないかなぁ」


 2人はそう言うが、呼び鈴が数回鳴らされる。


「……やっぱり出た方がいいよな……」


「じゃあ、私が出ますね。ご主人とイノリは玄関の位置から見えないように移動しておいてください」


 そう言うと、マツリは俺とイノリの身体をぐいっと動かし、玄関に行った。


「げっ」


「ああ、あなたですか……『先輩』さん」


「いやまあそうか、あいつの家にあんたが居るのはおかしくないか……」


 そのあたりまでの会話が聞こえてきたが、マツリが外に出て扉を閉めたので2人の声は聞こえなくなってしまった。と思ったが結構大きな声で話しているのだろう、7割くらいは内容が聞こえてくる。俺がいるんだろうとか居留守だとか、まあ修羅場である。


「イノリ、あれって無事に解決すると思う?」


「さあ、少なくともご主人が出ていったら身体が千切れるまで取り合いになる可能性はあるわ、冗談でも比喩でもなく本気でね。だからこうして私と一緒にいなさい」


 イノリの一人勝ちなんじゃないだろうか、という考えが一瞬頭をよぎったが、そのあたりのことは考えてもどうにもならないだろうという結論になり、先送りにすることにした。そのうち近所の人が諌めてくれるだろう……いや無理かも。


 殴り合いのような雰囲気になったら流石に止めに行こう。止めに入って止まるかどうかはわからないんだけれども。


 そんなことを考えていたら数十分後、マツリが帰ってきた。非常に疲れているような雰囲気で、俺の前に膝をつくと両腕を伸ばして、無言で抱きしめることを要求してきた。


 マツリが何かを頼むときに何も言わないのって、初めてじゃないだろうか。そんなことを考えながら、イノリの頭を軽く撫でてから離し……離れない。


 2人いっぺんに抱きしめてやる。少しばかり体積が大きくて大変だが、なんとか抱きとめた。


「うぅあ、っと」


 そのまま体重に任せて押し倒された。2人ともしがみつくように抱きついてきているので、もう何もできない。なんというか。


「お疲れ様、だね」


 先輩のことが嫌いというわけではないのだけれども……というか好意を向けてくれているのは嬉しくないといえば嘘になってしまうけれども。


 俺にとっては、先輩の好意よりもマツリとイノリの好意のほうが大事で嬉しいんだよな。

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