賄い
徒歩10分かからない距離にある、比較的近所のスーパー。雨の中走ったときは普段以上に時間がかかった気がするが、今回は何事問題なくたどり着いた。
「さてとりあえずは……冷凍庫はまだ空いていたので鶏肉を多めに買って冷凍しておきましょう。多少味は落ちてしまいますけれども、値段の方を結構気にしていますしね」
「そっちの方は申し訳ない」
「いいんですよー、あなたが頑張ってるのは知っていますし」
店の中ではマツリはご主人とは呼ばない。当たり前ではあるけれども、なんとなく寂しいような感覚になる。店内で他の人の話を聞いている人なんてそうそういないだろうけれど、もし聞かれてしまったら警察を呼ばれる案件になってしまうかもしれない。
警備の人に軽く会釈しつつ店の中へ。カートにカゴを乗せてマツリについていく。前回にはそれどころで意識していなかったが、店内レイアウトがいくらか変わっているような気がする。実際には品揃えの色合いが変わってるだけで、レイアウトは何も変わっていなかった。
「普段どれだけ適当に買い物してるのよ」
イノリからツッコミが念話で届く。かなり適当、以外の返答のしようがなかったので残念ながら返事はできなかった。
マツリが手にとったものを受け取り、あるいはカゴを近寄せて荷物にしていく。カバンに入るだろうか? と思ったが、カバンの中にもう2個カバンが入っていたので問題なさそうだ。というか、これが全部入るような買い物じゃないと荷物持ちなんてそもそも不要か。力だってマツリのほうが強いのだし。
「単純に近くにいるほうが何かあったときの対応もしやすいですし。私の手が空いていることで守りやすくなりますよね?」
そういうところまで考えてくれるのは、本当にありがたい。そうやって何かしらに注意しながら行動しないといけない状態はなんとか回避したいのだが、残念ながら人生のいままでで交通事故に遭遇した回数よりも、ここ数週間の間に妖精に遭遇してしまった回数のほうが何倍も多い結果になっている。
「さてさて、今回の買い物はいくらになると思いますか? ヒントは5日分です」
1日1000円程度かな? と思っていたが、結果は3500円。マツリとイノリもいるのに、随分と安くなった。
「まあいろいろ任せておいてください。期待しておいてください。ね?」
朗らかにこちらに笑いかけるマツリを見て撫でてしまいたくなったが、残念ながら俺の両手は3つの大きなカバンで塞がっていた。冗談じゃないくらいに重い。買い物カートから持ち上げるときにはマツリは軽々と運んでいたので行けるんじゃないかと思ったが、正直結構きつい。
でもまあ何事も問題が起きることはなく、妖精や魔神、先輩や部長に遭遇することもなく帰宅できた。
「いやまあ、流石にそう毎日俺に何かしらが起きてるほうがおかしいんだよ」
マツリと出会ってからの出来事は超高密度スケジュールである。痛かったり忙しかったりと大変なことは多かったけれども、なんだかんだで楽しいことの方が多いのだ。
「ご主人、買ったものを片付けたら、また楽しいことをしましょう? 外に出たら汗をかいちゃいましたし、ね?」
「私もご主人のポケットの中でムレムレになっちゃったわ。責任とってもらうんだから覚悟してね?」
2人ともわざとらしい言い方で煽ってくる。健全な男子としては、こうして求められるのはとても嬉しい。嬉しいけれども悲しいことに経験があまりにも足りていなかった。
荷物を片付け終わり次第、好き放題にされてしまいそうである。
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