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軽快

「とりあえず部長への警戒度合いは減らしておくとして……それでも、妖精に対してはどうしようもないから、ある程度はイノリに不自由を課すことになると思う。ごめんな」


「いいっていいって。埋め合わせはちゃんとやってもらうから」


 イノリはニヘヘ、と可愛らしく笑いかけながら俺の鼻にキスしてくる。


「怖いなぁそれ。ところでなんだけどさ。妖精と魔神ってどう違うんだ? 今まで妖精にしかあったことが無いけれども」


「妖精はどちらかというと現象みたいなものに近いけれども、魔神は意志に近い……といってわかりますかね? パソコンで例えるなら、ウイルスとかハッキングとか仕掛けてくるのが妖精で、勝手に電源を触ったり物理的に破壊しようとしてくるのが魔神です」


 わかりやすいようなわかりにくいような微妙な例えだ。


「でもまあ結果的にデータを取られたりだとか、破壊されるだとかそういった結末になることは変わらないんですよね。どっちがどっちだからといって大きく対処法が異なるというわけではないですし。どちらも見つからない、これが大前提です」


「おっけ、了解」


「ただ、隠れるための術を使ったところで、その術があったっていうことに気づかれるかもしれないので。そういう痕跡も隠せるレベルにならないとむやみに使うのはまずいですね」


「その時は2人に協力を頼むしかないよなぁ」


「とは言っても目に見てわかるような連中は、今の段階だと静かに逃げるしかないわ。視覚に影響を与えるほどに強い力を蓄えてるってことだから」


 今の段階ではどうしようもないか……平穏に暮らすための道筋は長い。


「で、話を戻しておくけれど。今日は結局買い物に行くのかしら?」


「どうせですから買いだめしておきましょう。外に出る回数を減らしておけば、妖精や魔神と遭遇する可能性自体も少なくできますから」


「じゃあそういう方向にしておこうか。2人とも、準備よろしく」


 俺の合図でマツリは買い物かばんを持ってくる。イノリは小さくなり、ストラップとして同行する状態に。しばらく買い物は任せきりだったので、現状では本当に荷物持ちの役割しかないかもしれない。数日前に雨の中マツリを迎えに行った時きりだ。


「献立はこちらで完全に決めてしまってもよろしいですか?」


「ん、お願いするよ。大丈夫だとは思うけれども、あんまり高くならないようにしたい」


 現状はまだバイトと仕送りで生活している身分だし。布団とかシャツとか、いくらか買い直ししたいものもできてしまったので少し節約する方向に行きたい。


 いや、布団は買い直してもまた汚してしまう可能性が高いのだけれど。干す以外の対処が難しいので、どうにかしたい。ん?


「マツリ、布団ってもしかして洗ってたりする?」


「え、はい。洗ってますよ?」


「まじか……ありがとう」


 いろいろと手間をかけてしまったようだ。少しくらいはマツリに楽をさせてやりたいと思ってしまうが、正直なところ俺にできてマツリにできないということがほとんど存在していないので、何をやろうにも足手まといになってしまうのである。


「はいはい、ノロケはいいから早いところ行きましょ。14時までなら野菜と鶏肉が安い日だから狙っちゃいましょう」


 イノリが胸ポケットの中から、俺の方をぺちぺちと叩きながら声をかけてくる。いわゆるジト目と言われるような目つきであり、狭い場所には長く居るのは嫌だという構えである。


「まったく、ご主人の埋め合わせは一体いつになるのかしら?」


 いつになるかわからない俺からの埋め合わせも早いうちにやって置かなければいかない。イノリに負担をかけるわけにも行かないので、早いうちに出発してしまおう。

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