警戒
「とりあえずは、今日は外出しないほうがいいかな?」
部長や先輩にイノリの事を隠しておくならば、外出に関してもいろいろと計画を考えないといけないだろう。
「そのあたりはあんまり気にしなくても大丈夫だとは思います。少なくともこの辺りで買い物するとかならともかく、少し離れたところに行くならば問題ないんじゃないかと。あんまり警戒しすぎても、という感じですよね」
「逆に近くにいるほうが危険になるのかなぁ。部長の方が移動先を予測してきたりしない限りは」
さすがにそんなことはしないとは思うけれども。というか今までもそういうことはされなかったのだし。
「まあ妖精を誑かして嗾けてきたのが部長だったとしたら、もうそれはどうしようもないとは思うけれどね」
一応妖精たちへの対策を教えてくれているのだから、さすがに違うだろうとは思っている。
「とりあえず、出かけるときはイノリ、小さい姿になっていてもらえるかい」
「うん、だいじょーぶよ。まあもともと隠密護衛の式神だから、姿を隠しておくことは全然問題ないわ。大きい姿に変身できないから窮屈に感じている、なんてこともないわけだし」
イノリは小さい姿のまま、携帯のストラップ紐を一つ用意すると、自身の服の背中の部分に引っ掛けて用意した。
「画面拭きがわりに使ってください?」
「いや、それはそれでどうなんだよ」
「ご主人のお役に立てるならば本望です、なんてね? 正直なところ、このくらい近い場所にいれば何かしらの問題があった時にはすぐに対処ができると思うのよね」
「そういえば、2人用に普通の携帯があったほうがいいかな?」
「うーん、なくてもいいと思いますよ。お互いとしか連絡を取り合いませんし、念話を盗聴してくるような誰かが部長さん以外にいるならば、もうその時は相当のピンチです」
「それは確かにそうかも。私は直接会ってないから脅威は間接的にしか理解できていないのはあるけれど」
ということで、通信用の念話に関するセキュリティを強化しよう、という話になった……できるの?
「術式はあんまり得意じゃないですけどね、できないわけではないです。ご主人にお手伝いとかをしてもらえるならば、少しは早く終わらせる事ができるかも、っていう感じですかね?」
マツリは俺の手を取ると、了承を待たずに手を胸元に誘導してきた。半ば強引に掴まされる。……柔らかい。ではなくて。
「ちょーっと時間がかかりますけど、しばらく我慢していてくださいね?」
「ご主人、マツリの胸を揉んだりして妨害してあげたらだめだからね?」
「それは誘っているわけじゃないよな?」
そんな適当な雰囲気で、マツリの胸を抑えておく。大きな胸や服を無視して鼓動が手に届く。まるで耳元でその心音を聞いているかのような錯覚に陥る。
「これは……いろいろとよろしくないな」
「大丈夫ですよ、後で遊んでもらいますから」
短いとも長いとも言えない程度の時間が経った頃にマツリが一息つく。終わりましたよ、と視線で合図して、掴んでいた俺の手首を開放してくれる。
なんとなく、そのまま胸から手を離すことができなかった。
「おや、未練たらたらですか?」
からかうようにそんなことを言われてしまったので、そのままぐにっと鷲掴みにしてあげる。
「ご主人、本当に好きですねぇ、これ」
気にしていないと言わんばかりの態度、逃げるどころかそのまま身体を近寄せ、逆に逃げられないようにしてきた。
「ああ、やっぱり敵わないなぁ」
「適わないのはこっちですよ。今日はもう、用事はありませんよね?」
マツリはそんなことを言うと、そのまま抱きついて体重をかけてきた。
「わ、ちょっとこのままじゃ挟まるって……!」
イノリのそんな悲鳴を聞きながら寝床に押し倒された。
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