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不意

「ご主人、今日のバイトは何時からなんでしょうか? というか、今日はあるんでしょうか?」


 マツリが不意にそんなことを問いかけてくる。そういえば部長は特に何かしらは言っていなかったような。多分昨日と同じじゃないだろうか。


 そんなことを考えていると、部長からショートメールが届いた。


「えーと……蜘蛛子ちゃんが怒りそうだから今日は休みでいいよ、だって。どういうことだろう?」


 先輩を怒らせてしまうようなことが仕事内容になるんだろうか。


「あーご主人、もしかしてなんですけど部長さんとやらに何かしら持たされてたりしません? もしそういうものがあったら昨晩のあれそれは覗かれていた可能性があります」


「えっ」


 急いで昨日の衣類やら持ち物を確認したけれども、何か変なものを持たされていたとかそういう事はなかった。他に何かあったとしたら焼肉なんだけれども。


「それができたらあの人はもういろいろ超越した存在なのかもね」


 イノリが言うには、食べ物として認識されるものに関しては術をかけることができないとかなんとか。この認識は種族によって変わってくるらしい。


「部長に直接聞いたほうが早いか。素直に答えてくれるかどうかは分からないけれど」


 なぜ先輩が怒るんですか、と送り返す。それに対する返信の内容は、昨日の先輩の行動の結果からマツリのとる行動の予想の結果……だそうで。


「覗いてた訳じゃなくて、単純に予想で? うーん」


「イノリのことに関して言及がないならば、覗きではないっていう可能性もなくはないです。気づいていて隠している可能性だって十分にありますが、向こうから言ってこない限りはなるべくイノリの事は隠しておきましょう」


「隠されてるって考えるとなんだか背徳的な感じがしない? ともあれ暫くは人型で外出はできないかなぁ」


 イノリはいつの間にかちび形態になって、俺の頭の上で両肘をつくように寝転がっている。少し頭を傾けても落ちるどころかバランスを崩す様子もなく、うまい具合に転がっている。てしてし、と効果音が聞こえてきそうな叩き方をされた。


「隠すなら外出しないほうが良いですけれど、それだとイノリがそうして『いる』理由も弱くなっちゃいますよね。もともと護衛の役割も兼ねてましたし」


 今でこそある程度独立した存在だけれど、イノリはマツリの式神である。行動はある程度制限されている……らしい。俺には分からない、というか認知できないものだが、一部の行動が制限されているらしい。


「ま、日常生活を送る上ではあんまり問題はないんだけどね。と、これは前にも言ったかしら?」


「あんまりよく覚えてないなぁ」


 もし仮に説明を受けていたとしても覚えていないし、今回もきっと忘れてしまうような気がする。


「できないことはマツリに任せちゃうのだけれど」


「そうなっちゃいますね。とはいっても、反抗とか反乱とか、そういう感じの事ばっかりで」


「抜け駆けは禁止されていないみたいなのよね」


 イノリはそんなことを言いながら、俺の頭に頬ずりをしてくる。痒い所を優しく掻かれているような感覚がして、なかなか気持ちいい。マツリがあわあわと何とも言えない表情を浮かべていたので抱きしめてやろうかと思ったけど、不意にイノリに髪を引かれたので一瞬止まってしまう。


「ふふん」


「ちょっと、イノリっ」


 これは反乱ではないのか……とか考えながら、改めてマツリに抱き着く……前に。


「イノリ、一旦大きく戻ってくれるかい?」


「んっ」


 元の大きさに戻ったイノリとマツリの事を、思い切り抱きしめる。


「なんというか、ご主人ってずるいですよねぇ。何をしたら私達が喜ぶか分かってるんですから」


 2人ともが抱きしめ返してくれた。2人の鼓動が大きく聞こえた。

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