宴会
実時間では6時間程度の訓練と製作……つまり体感では6倍の36時間程度の労働時間。眠気も空腹も訪れなかったので正直なところ落ち着かなかった。疲労感はあるものの、実際の36時間労働に比べれば少ないんじゃないだろうか。
マツリに会いたい。思考の中でその考えが一瞬沸くと、しばらくそれしか考えられなくなった。大きくため息を吐く。
「先輩、部長。少し休憩しませんか?」
見た感じ2人にその気はないだろうけれど。というか、これは一体何を作っているんだろう。バイト内容を正直理解できていない。
「ん、ああもう7時過ぎか。集中すると時間が流れるのが早いねぇ」
「いや、全然そんなことはないんですけれども。普通に36時間体感ですよ」
体感時間と実時間と疲労感が全部かみ合わなくなっているせいで、正直いろんな感覚がバグりそうになっている。
「まあとりあえず、給料は36時間ぶんで計上するから安心してくれ。短期で最低自給はこれだから……少し色を付けておこう。とりあえず明日3日分渡すから期待しておいてくれ」
部長は言いながら、俺と先輩が作ったよくわからないものを回収する。何かを描いていた、あるいは書いていたような記憶しか残っていないのだけれど、いつの間にか小さな木の板を削って作ったような物もある。俺や先輩の服にいくらか削り屑もくっついているので、部長が今適当に用意した物品ではないようだとは思うけれど。
「これ、何に使うんですか?」
「ああそれ? 簡単に言ってしまうと身代わり人形。こういうのは完全に壊れるまで使えるタイプとか、一度に複数は効果発揮しないとか、オーバーフローしたダメージは身代わりしてくれないとかいろいろあるんだけど、これは制限時間タイプだね。リミットが来るまでのダメージを完全に受けてくれるけど、そのかわり時間は短めのやつ」
気になったので聞いてみたところあっさりと答えてくれた。そういうのを買う人は……存在を知っているなら結構いるんだろう。
「タイミングさえ合わせられたら交通事故だって回避できるしね。結構な高値で売れるからいくらあってもいい」
売れ筋ナンバーワンさ、と部長は言う。
「さて、低級ランクとはいえ目玉商品を2日目で作れるようになってしまった君達には、社長から特別報酬を上げなければならないよね。ということで焼き肉屋にでも行こうか」
片付けも程々な状態で部長が俺と先輩を誘ってくれた。
「私としては、愛しの後輩くんと2人っきりが良かったんだけどね?」
先輩はそんなことを言いながら、高そうな……というか実際に高い肉をムシャムシャと食べている。ご飯や野菜には目もくれない。時々俺の肩に触ったり食べさせようとしてくるけれども、酔っているんだろうかこの人は。
「蜘蛛は珈琲で酔うなんて話はあるけど、この子部室にいるときは結構缶コーヒー飲んでたりするしね。多分肉の煙と雰囲気に酔っぱらってるんじゃないかな」
一応この場に酒を飲む人はいない。部長は車の運転をするし、先輩は肉と俺と部長以外に興味はないみたいだし、俺は俺で酒の後に起こった出来事や似たことが起こりやしないだろうか、と可能性を考えているし、酔って帰ってマツリに迷惑をかけたりしたくはないというのがある。
「ま、警戒したところで天災は起こるし人災は起こる。心構えは悪くないとは思うけどね」
先輩は見透かしたようにそんなことを呟きながら、また俺に肉を食わせようとする。……ふむ、塩だれ。
「部長としては君達が爛れた関係になるのを止めたほうがいいのか、それとも楽しく眺めさせてもらうほうが良いのか悩ましいところではあるよね」
「部長っていい性格してますよね」
「誉め言葉と受け取っておくよ」
食べ放題ではないメニューを結構な量食べてから解散となった。金額がそれはもうとんでもないことになっていたが、部長がクレジットカードで支払っていた。
面白かったと思ってくださったなら、画面下から【ポイント】評価や【ブックマーク】、【レビュー】などを貰えると嬉しくなってやる気が出ます。




