多い
「さてさて、2人とも。昨日は妖精や魔神に見つからなくなるようにする術札の作り方を教えたけれども、これは札という道具が必要になってくる。例えばモノを持ち込めない場所だったり、あるいはどこか出先でそういったものを持っていないときに遭遇することも多い、というかそっちのほうが多いんじゃないかなって俺的には思っている」
部長は部室でやっていたように紙を巻いてタバコのようなものを作ると、それを空中に動かし、それで紋様を描く。
「煙も描くものも。どちらもあったほうが効力は高くなる。実際には煙がなくてもいい。なんならこうやって振るものは指先でもいい。まあさっき言った状態だとなにも道具なんて用意できないことのほうが多いから……そもそも線がおかしくなると正しく効果が発揮できないけれども、空中に描けば立体として術の幅が広がる」
難しい説明が続く。まあ要で言うと、フリーハンドで空中に正確な形の円や正三角形などを描いたりできるようになれっていうことである。
……煙で描いたら線が歪になるんじゃないだろうか。その歪になった結果の形で術を作っている?
「正直理屈理論はだいたいでいいんだよ。説明通りのハンコじゃだめだけど、少なくともコピーができるようになってからだね」
そのまま時間をかけて、いろいろと指示を受ける。……ふと思ったんだけど、こういうのって何年も十分に修行をして、それでようやくどうにかなる、っていうものじゃないんだろうか。
「まあ普通はそうだろうね。でも君達、とくに君の場合にはいろいろと対処できるようになっておく必要がありそうだからちょっと反則をね」
聞きたいような、聞きたくないような。
「まあそんな反則をしなくても俺が教えていること自体が反則だとは思うんだけれども。他の反則って言ったら、狐の獣帯から直接教えを賜ったり……かな? 狐は基本は閉鎖的な連中だから、狐以外が直接教えてもらう事なんて世界の危機でもなければなさそうだよね」
「部長はその狐に会ったことはあるんですか?」
「いや全然。そもそも交友のある獣帯が蜘蛛子ちゃんと君のツレだけだし」
「誰が蜘蛛子だ、殴っていい?」
「うちの子と部長の交友はできる限り遮断しておきたいんですよね」
「はは、これは手厳しい」
そんな雑談も挟みながら指導を受ける。ほんの2時間程度で、指先から僅かながら火を出せるようになったのは驚いた。まあ数秒で消えちゃうんだけれど。
「よし、感覚を掴んだね。ただこれは妖精はともかくとして、魔神にはバレちゃうから結界で覆ってる場所では訓練しないように……つまり、訓練するときはうちか部室の方でってことで。もし君の家のほうに結界があるならしても大丈夫だけれど」
あとで確認しておこう……と、そうだ。マツリのほうに連絡を入れておかなければ。この人は念話盗聴できるらしいし、普通に携帯電話を使う。
「先輩、少しだけ電話を借りても?」
先輩は『今かい?』と言わんばかりの表情でこちらを見てきたが、すぐに渡してくれた。時間はまだ15時……じゃない。まだこの家についてから30分くらいしか経っていない……?
「部長、」
「ああいや、後で言うつもりではあったんだけどね。この室内は外の時間とは速度が違うんだよ。実時間が10分で、体感では1時間。これ以上の乖離は魔神も妖精も、どころか多分人間も獣帯も寄せられてくるようになるからできないんだけれど」
説明をうけて最初に思ったのは、バイト代は本来の時間通りなんだろうか、という事だった。
部長に対しては何を言っても効果がないような気がしたので、そのままマツリに夕飯は皆で食べに行くから量は少なくてもいい、と伝えた。
『食べないとは言わないんですね。少し安心です』
「家に帰って食べないことを考えたら、なんだか落ち着かない気がしたから」
通話中は、普通に時間が流れていた。
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