視界
部長が出迎えると言っていた時間になったので玄関に出ると、ちょうど部長の車が到着するところだった。タイミングを見計らっていたんじゃないだろうか、と思うくらいにはピッタリだった。
「およ、あの子は参加しないのかい?」
「ええ、どうにもなれないことをしたせいか体調が良くないらしくて」
「ふぅん、そんな感じはしなかったけどねぇ。まあ行きたくないって言うならば代わりに君が働いてくれたらいいさ。だろ?」
「任せてくださいよ。ところで先輩は?」
車のほうに目をやりながら聞く。後部座席に座っているようだ。こちらに気付いたのか、ドアを開けてこちらに手を振ってきた。俺の気を引きたいのか、あるいは車の中に居たくないのか……まあ両方だろうな、と己惚れておく。
「あの調子さ。俺もすっかり嫌われたものだよね?」
「本気で嫌ならばそもそも車に乗ることも拒否してるとは思いますけどね……そう考えるとうちの方は先輩のことを本気で嫌ってるんでしょうか」
「おっと、思わぬところからナイフが飛んできたぞ。まあ印象が悪いのはいいことだ。怪異除けが正しく反応していると考えていいだろう」
「いや、部長の場合は言動のせいだと思うんですが」
俺の方も部長の事は好ましいとは思っていないのもあるのだし。
「君だって、今は純度10割の人間じゃないんだろう? すくなくとも少し前までは人間だったけど……二人ほどではないけれども警戒している……あの時の事より前に、俺のことを警戒していたかい?」
「うーん、部活に行くことを多少敬遠はしていましたけど……」
「それはただ面倒だっただけだろう? 俺のこと自体を警戒していたのではないはずさ。ちなみに、怪異除けというのはこの札。まあ君のことが好きな子達に苦手に思われちゃうだろうから、作り方は教えるけれども、作ること自体はあまりお勧めしないよ」
部長は手に持っていたものを軽く振っていたが……火種もないのにそれは燃えてしまった。灰が風に舞ってどこかへ飛んでいく。
「とはいえ君は『破壊時効果発揮』のほうが得意みたいだから気にすることはないとは思うけれど。妖精除けと魔神除け、それから獣帯除け。俺や君みたいな特殊な状況にある人間ならともかく、普通の人なら獣帯除けはそうそう使うような場面にはならないんだけどね」
あの子の親族にどうして獣帯が混ざったのか正直分からない、と部長は先輩のほうを見ながらつぶやく。
「あー……部長は知ってるんじゃあないですか?」
俺のこともいつの間にか知られていたし、先輩の事情も言わないだけで察知しているんじゃないだろうか?
「いや、さすがに身近にあったことならともかく、親世代までならともかく。それより前はさすがにそう簡単には調べがつかないよ。ちょっと資料を探れば出てくるのかもしれないけれども、正直どこかと交渉するのは果てしなく面倒だし借りをどこかに作るのも面倒だ。本人に聞くほど興味がある訳でもないし、聞いたらそれはトラブルのもとになる」
「部長が人並みの配慮をしているとは驚きです」
「君は本当に辛辣だね? まあそういうことさ」
どういう事なんだろう。
とりあえずあまり待たせるわけにもいかないので、先輩に引きずられて部長の車に向かった。
「今日はちゃんと付き合ってもらうよ」
先輩が耳元でそうささやいてきた。腕や足を絡めるようにしながらの囁きは、なんとも言い難い感覚だった。
いろんな意味で襲われないようにしなければ。そんなことを考えていると、絡みついてくる腕の数がどんどん増えていった。……鏡に映った俺と先輩の姿は、捕食シーンのようだった。
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