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一睡

「イノリ、相談に乗ってくれてありがとう」


「どういたしまして。とはいっても何かできたっていう感じじゃないけどね。ご主人とマツリのため、最終的には自分のために、一方的に適当な決定を押し付けただけ。なんならコインを投げて決断したのと変わらないのよ」


 イノリは自身の鼻先を掻きながら、少し照れたような表情を浮かべる。そのまま視線を逸らすことはなんだかもったいないような気がして、そのまま見続けた。一層イノリの顔が赤くなった、と思う。結構暗いので見間違いだと言われたらそんな気はするけど、見間違いではないという確信めいたものがあった。


「それでも助かったよ。あー、何かお礼ができればいいのだけれど」


「んー……気にしなくてもいいのだけど、そうね。昨日はほとんどずっとマツリと一緒だったのだし、今度1日だけ、私と一緒にいてくれたら嬉しい、なんて思ってしまうのだけれども」


 イノリは目を逸らしたりはせず、恥じらいのまま少し潤んだ瞳でじっとこちらを見つめながらそんなおねだりをしてくれる。この表情を独り占めしている……それこそ、マツリにすら見られていないということを考えると、何とも言えない背徳感のような、しかし心地良い感覚が走る。


「まあ実際にマツリの許可がとれるかどうかとか、いろいろ気にするハードルがあるんだけれども、もし可能になるタイミングがあるならば2人きりで過ごしたいなー、なんて」


 呼吸音が聞こえ、吐息がお互いの顔に吹きかかる。唇が当たりそうなほどの至近距離と、密着と言ってしまえるほどにぶつかる胸からは心音すらこちらに伝わってきてしまいそうだ。


「イノリ……」


 イノリの背中に手を伸ばして、そのまま抱きしめてしまう。マツリに抱き着かれたまま抱きしめる状態になり、


「これって浮気になるんでしょうか? 少なくとも先に抱き着いてたのは私の方ですよね?」

「うぐぅっぁっ」


 抱き着いたままだったマツリが締め上げてきた。肺の空気が搾りだされ、変な声が出てしまう。俺の腕はイノリを抱きしめることに失敗して、無自覚にあらぬ方向に伸ばしてしまった。


「あら、もうしばらく眠っていればよかったんじゃないの? まだ不調はおさまっていないんじゃないかしら?」


 イノリがマツリの片手を握り、そのまま子供をあやすようにその手を弄る。俺の腹部は解放され、ようやく普通に呼吸できるようになった。いや、マツリの力もそれを剥がせるイノリの力もなかなか強い。腹筋がこのまま破壊されるんじゃないか、と一瞬思ってしまった。


「抜け駆け……とは思いませんけど。私の寝ているときにはこういうことはやらないでほしいですね、嫉妬しちゃうので」


 イノリの手を巻き込むようにしながら、マツリは再び抱き着いてくる。先程とは違い優しく、壊れ物を抱くかのように柔らかい手つきだった。


「今日はこのまま抱き着いていてもいいですか? 少なくとも日が昇るまで」


「部長が車で迎えに来るだろうから、それまではそうしててもいいよ」


 2人から抱きしめられる圧力が少し強くなる。両側から挟むような刺激に、意識を少しずつ溶かされていくようなぼんやりした感覚が強くなってきた。手だけではなく、胸や身体や足の柔らかい感触がそのまま俺の身体をもほぐしてしまおうとしているかのようだった。


「おやすみなさい、今日は少し疲れているので、このまま甘えさせてください。あるいは、甘えさせてあげますから」


 マツリが背後から抱きしめ、こちらの腹部を撫でるようにゆるい刺激をし続けている。


 もしかしたら、このまま寝れないもかもしれない。

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