酔い
寝付けない。マツリが抱き着いてくる力が、先日のものよりもかなり強く感じた。優しく抱きしめられるようなものではなく、縋るように、きついくらいにまで抱き着いてくる。
本人は大丈夫だとは言っていたけれども、そこまで心配を掛けてしまったことを申し訳なく思う。
時計を見やればまだ深夜帯。いったん上半身を起こすが、マツリは抱き着いたまま、しかし眠りについている。意地でも離さないという強い意志を感じる。あるいは離せないのだろうか。このまま動けばマツリを引きずることになりそうだ。
「あら、ご主人起きちゃったの?」
「ああ、イノリか。そうじゃないよ、なんだか寝付けなくて。なんというか、マツリが不安がってるのかな? もしかしたら違うかもなんだけど、少なくとも原因は俺だと思うから」
イノリはそれを聞き、やれやれと言わんばかりの視線を向けてきた。
「とりあえずは……まあ難しいところだけれども、そもそもの大前提としてご主人が悩んでいるっていうのがあるのね。マツリや私のため、あるいはご主人自身のため……そのあたりを気にしてると、マツリはダイレクトに影響受けちゃうからね」
そう言いながらイノリはグラスを持ってくる。入っているのはミルク……ではなく、普通の水道水。
「私もつながっているといえばつながっているけど、一応は『式神』だから、マツリほど影響は受けていない。でも、このままマツリが悩み続けている状態が続くなら、もしかしたらこっちも悪い影響は出てくるかもね」
「んー、そうか……うん、申し訳ない」
グラスを受け取り、水を飲み干す。
「ご主人はどうしたいの? ワガママに行動しても、あるいは私達以外の人たちとの関係を気にしているのでも、どちらにしても……すっぱりと決められたら、マツリは少しは落ち着くと思う。決まらなかったとしても、そのまましばらくくっつけさせておけばどうにかなるけれども。マツリとご主人はある程度混ざり合っている存在だから、繋がったままでいれば不安定さは解消できるはず」
マツリのほうに顔を向ける。俺の腰付近に抱き着いて、額をくっつけたままで表情を伺うことは難しい。けれども夕方時のような、悩んでいるだとか心配しているものではなく、かなり落ち着いているものだと言えるだろう。
「イノリ、俺はどうしたらいいんだろう?」
「あれよねご主人。正直なところ私としては私達を頼ってくれたらいいと思っている。けれども、自分でどうにかしたいとか、こっちに心配かけたくないっていう考えもわかる。だから、私がすっぱりと決めちゃうわ」
イノリはそう言いながら、俺の鼻先に指をあてる。身体は密着しそうなくらいに近く、その表情から目を離すことができない。しかしそれが怒っているのか、あるいは喜んでいるのか。そのくらいのことも読み取ることができなかった。
「ご主人、ある程度は習得しておきなさい。でも、焦ることはないし、なんなら習得できなくてもいい。やってみた、っていう事実だけあったらいいの」
やることは大事だけど無理しなくていい、という明快な回答をいただいた。せっかくアドバイスをもらったんだ、そういう方向で行くことにしよう。
マツリの抱きしめが、優しく弱まった気がした。
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