纏い
のんびり生活できていない問題
「安心してくれ、まあ君達に危害はないだろうし、学校の建物のうちの一つが火災になったところでオンライン授業になったりするだけだよ。あるいは授業の教室が別の場所に移動になるか……とはいえ、何もしなかったら酷いことになるから暫く出るけど。君達の間では積もる話もあるだろうし、あれの視から隠れられるような手段がないならここに居ると良い」
部長は早口で説明し、芝居がかった動作で袈裟のような服を羽織り、コピー機から引き抜いた紙にボールペンで奇怪な模様を描き上げる。
「おっと、そこの女子2人は触らないように。人以外にはダメージが入るような代物だから」
「私としては部長が人間であることに疑いの目を向けてはいるのですけど」
先輩はぼやくように部長に言う。部長は模様を描いた紙をコピー機で増やしている。パっと見た感じでは怪しい宗教とか似非科学もどきにハマった人が車や家の窓に貼るような怪しい記号でしかない。が、それをよく見ると。
「部長、それに止まれ、とか立ち入り禁止、とか書いてますよね。なんでです?」
「あー、簡単に言うと奴らは人間の知識も獣帯の知識も持ち合わせてる……知識というか仕組みを知っている、のほうが正しいかな。だから、立ち入り禁止の看板の先に人が少ないことを理解している。つまり、奴らを囲んでおけば被害は少なくなる……かもしれない。普通の奴らならまあまあ効果が増すんだけど、あんな規模になったらちょっとわからないよね。ないよりはあったほうが良い、というか必須だとは思うけど」
部長はそれから1枚抜き取り、4度半分折にする。タバコを作るように巻き上げると、それに火をつけた。それからペンライトを振るように空中に何かを描く。あるいは書く。
煙は空中に留まり続け、網のような見た目の何かがそこに浮かんでいた。
「火災報知器は煙探知だから煙がぶつからなければ問題ない。逆に言えば煙がぶつかれば反応してくれる。そうすればあいつが何かする前に人を追い払うことができる」
網のような煙は形を変えて、投げ槍のような見た目になった。
なんというか、一瞬で訳が分からないようなことばかりが起きている。先輩は煙が嫌なのか、部室隅の長椅子に寝転がっている。マツリは時々外の様子を確認しているが、僕の……俺のそばを離れない。
部長は時々いくつかの説明を交え、道具の作り方や使い方を見せたり説明しつつ、道具の製作と使用を繰り返す。
「理解できたかい?」
「えっ、あ、はい」
唐突にそんな確認をされ、うっかりと返事してしまう。だが、一切理解できないという訳ではない。
こういう道具がいくらか作ることができれば、マツリとイノリが時間を問わずに周囲を警戒している、なんていう必要がなくなるのだろうか。俺自身と2人の護身のために何かしら用意しておく必要があるのかもしれない。
「ふむ、もしよければだけどうちのほうでバイトしないかい? 給料はちゃんと出せるよ。もしかしたら世間的には裏バイトみたいなやつなのかもしれないけど」
「命の危険がありそうなので遠慮しておきます」
「そうかい? 所謂労災は10年くらい起きてはいないけど」
「目も当てられないような死体になりそうなので嫌です」
「肉体に損傷が付くような死に方はしないから大丈夫。とはいえ嫌だと言われたら仕方ない。気が変わったら声をかけてくれ。それと、もし何かこういうものを作るときは、見様見真似じゃだめだよ。ちゃんと修行するか、購入するか。今なら安くしておくよ?」
「まあ、そのうち」
俺は平穏に暮らしたいのだ。異常な死に方なんて平穏とは遠いし、マツリとイノリと3人でのんびりと過ごせたらいい。
まあ、そのために身を守るための何かが購入できるのならそうしておいたほうがいい。異能力じみたチカラを発揮する道具ができるところを目の前で見てしまったのだし、奇妙な現象にはある程度抵抗できるだろう。
4限目の時間帯が過ぎて50分、つまり部長が道具を作り終え外に向かってから20分後。
次に授業に向かうはずだった校舎棟で火災が発生した。
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