不揃い(裏)
「さてさて、ご主人は寝ましたかね?」
「寝たんじゃないわ、マツリ。あなたが締め落としたのよ」
「姉さんはそんな人聞きの悪いこと言わないでほしいんだけどなぁ」
「姉面しないでほしいっていうのは……いやこれは私のせいか。でもしないでほしいのは真実なのよね」
「まあそこまでで役割みたいなところもあるから。……様子はどう?」
「ご主人も大変よね。私達に遭遇する前から獣帯に目をつけられているなんて。というかあれ、どうやって人間社会に溶け出ていたのやら」
「獣帯は現代社会じゃあ基本的に誰からも認知されないもんね。私達みたいに『誰か』と混ざったり、あるいは非現実的な状況で治安も何もなくなったりすればもしかしたら、だけど。あの獣帯、持ってた道具類はちゃんと人間のもの。奪ったか正規の手段で手に入れたかは分からないけれど」
「持ち物に人間の気配がなかったから、どっちの手段にしてもだいぶ前でしょうね。正直なところ、ご主人以外の『人間』については目の前で襲われたりしない限り助けることはできないけれど」
「さすがにね。ご主人を守ることのほうが大事だし」
「で、どっちが出る? 保険替わりにするなら私が出たほうがいいとは思うけれど」
「んー、あの時はあいつ探知とかしてなかったし、イノリのことは隠しておいたほうがいいと思う。私の方は直接見られただけじゃないだろうし。家の鍵を開けた癖に中に入らなかったのは、ちゃんと結界が機能している証拠だから、イノリのことはたぶんバレないと思うよ」
「そう? まあそっちに何かあったりしたら私もご主人もタダでは済まないからね。こういう時は『一人の身体じゃない』って言えばいいのかしら」
「それはなんだか意味合いが違うような気がするけど……まあ、無事を祈っておいて」
「私の祈りだなんて、ジョークになるのかしら? まあそう言うよりも、早く戻らないと私がご主人を独り占めしてしまうから」
「それは困るわ。さっさと終わらせないと」
夜は更けていく。
***
「あなたは何者なんですか」
「言うと思うかい? まあ当ててみなよ。成否くらいは答えてあげる」
「絡新婦か華蟷螂あたりかしら」
「……驚いたね。なにか根拠が?」
「いいえ何も。あえて言うならこういう陰湿なことをやるのは蟲で、それから捕食者、見た目だけならば奇麗……まあそのくらいかしら」
「見た目だけとはよく言ってくれた。ただ勘違いしないで欲しいのは、彼を殺したりするつもりはないという事さ」
「数日前から妖精を嗾けているのはあなたですよね?」
「2回ほど。君が彼の家に入っていった日の夜と、先程の雨の時」
「それ以外にはないと?」
「腕を3本賭けてもいいよ。やっていない。そもそも私の目的は彼を篭絡することで、食ったり殺したりすることではない。少なくとも彼の寿命が近付くまでは。君はただの恋敵だからね。積極的に殺そうとは思わないが、必要ならば殺す」
「それは困りますが、手を引くことはありません」
「こちらからも質問させてもらうよ。戸籍は必要かい?」
「……無回答で」
「そうかい。じゃあ判断がついたら声をかけてくれ」
「……ではまたそのうち、ですか」
「ああ、また」
風に舞うように絡新婦は去っていった。
「厄介だなぁ……」
ただ追い払っただけだ。進展も後退もしていない。
面白かったと思ってくださったなら、画面下から【ポイント】評価や【ブックマーク】などを貰えると嬉しくなってやる気が出ます。




