諍い
勢いよく書いていると楽しいものです
家に帰ったらさっさとシャワーを浴びてしまおう。そう思いながら歩いていたのだが。
「やあやあ、サークルに顔を出すというのは忘れていないだろうね?」
先輩が待ち構えていた。格好つけたように指先でカギを回している。
「それ、うちの鍵じゃないですよね?」
「ああ、大家さんが貸してくれたよ。姉だと言ったらあっさり開けてくれたよ。不用心だとは思わないかい? もっと良いところに引っ越すべきだ」
先輩が家の鍵を開ける。……本当に開いた。マツリもイノリも思い切り警戒している。というか、先輩が本当に女かどうかはわからないんだよな。少なくとも顔立ちは女性っぽく見えるが、化粧のせいかもしれないし。
「そちらは?」
「いえ、あなたに言うことはありません。あえていうならば深い関係の女です、と」
「ほう、逢瀬を邪魔してしまったわけか。それは申し訳ない」
「全然そう思っていないですよね? 部屋に入ってもらうわけにはいきません」
「片付いていないのかい? 私は気にしないが」
「正気で言っていますか? 聞いていた話とは随分と違いますね。もう少しわきまえた方だと思っていましたが」
「……冗談だよ、冗談。前に会ったときにそいつが浮かれてたような気がしたからね。これは何か生活の変化があったのだろうと思ったのだけれど。まさかの恋人ができていたとは」
マツリは無言で俺を庇う位置に立つ。こういう時に俺が前に出られたらいいのだけど、マツリのほうが判断が早いし強い。
「今日の君への用事はただの連絡だよ、部長から。しばらく忙しくなるから活動はしばらく休みだそうで。ついでに色々確認と、それから君の顔を見ておきたかったからお邪魔させて貰ったよ」
先輩は鍵を閉め直し、俺の方に緩やかに投げて渡してくる。
「先輩、今日みたいな悪戯はやめてもらえませんか。さすがに心臓に良くないですよ」
「そうかい? 君がそういうならばやめておこう」
普段から時折奇抜な行動をしていたが、今回のは許容しにくい範囲だ。
「ふぅむ。流石に悪戯が過ぎたか。お連れさんの目線が痛いね。……そうだ、今度何か奢らせてくれよ。それで許してもらえるかどうかはわからないけれども」
「あなたが同席しないのならばそれでもいいですよ」
「手厳しいことを言ってくれるね、お嬢さん。まあ仕方ないか。それと……まあ、これは言っても仕方ないか。何か悪い虫が付いてるっていうことでもなさそうだし」
君が安全なら問題ない、と呟いている。俺にとって一番危険な存在はあなたなんですが。
「あーすまない、また雨が降りそうだ。良ければなんだが傘を貸してくれないか?」
いけしゃあしゃあというのはこういう態度のことをいうのだろうか。
「先輩、自分の傘はないんですか?」
「ああ、今日は持ってきていなかったからね。また後日渡しに来る。学校で会ったらその時には返そうかと思うけれども」
「先輩っていつの間にか俺のそばにいますよね……まあいいです、壊さないでくださいよ。それから、一応乾かしてから返してください」
「恩に着るよ、ありがとう」
傘立てから紺色の傘を渡す。さっきの雨では使わなかったので乾いたままである。
先輩は傘を受け取ると、こちらに笑いかけてから帰って行った。
タイミングを見計らったかのように雨が再び振り出し、先輩はその傘を使い帰っていった。
「……寒いな、イノリ、シャワー浴びようか」
先輩がいなくなったのを確認してから家に入り、イノリに語り掛ける。イノリは緊張を解くかのように深呼吸したあと、大きなサイズになった。
「はいはいっと。冷えてるからお湯を沸かしてもいいんだけどね。さすがに時間がかかっちゃうでしょうし、その間に風邪ひかれてしまっても困るしね」
「では私はこのまま調理の方に。イノリ、任せましたよ」
「大丈夫だって。あ、塩撒いといたほうが良いかもしれないわ」
「それは確かに。簡単な結界でも作れるようにしておいたほうが良いかもしれません」
「そのあたりは一任するわ。さ、ご主人行きましょ」
背中を押されて風呂場に向かう。驚くほどの手際で服を脱がされ、そのままシャワーを浴びせられる。
お湯を浴びながら、ふと気づいた。
先輩、雨の中来たはずなのに全く濡れていなかったな?
面白かったと思ってくださったなら、画面下から【ポイント】評価や【ブックマーク】などを貰えると嬉しくなってやる気が出ます。




