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温かい

前回のタイトルは割と直喩的なあれです。

 結果だけ言ってしまうと、一線を越えてしまった。しかも2人にやられてしまった。だからといって2人の態度が変わるようなことはなく、何かしらを言及してくるようなこともないので、それならばこちらから何か言及したり、あるいは態度を変えるべきではないのだろう。


 もしかしたらこちらの自覚が一切ないだけで、態度に出てしまっているのかもしれないが。


 時間はいつの間にか随分と経過していて、休日の夕方ももうすぐ終わろうかというあたり。なんとなくだけれども、時計に目を向ける気分にはならない。


「昨日の夕飯は、何を食べてたんだっけ……」電車で移動してから、難しい話をしていて。あんまり思い出せないような感覚だ。いろいろ考え事をしていたせいかもしれないが、まるでそもそも食事をしなかったかのように思い出せない。マツリが食器洗いをしていた風景は見ているので食事をしていないということはないはず……いや、ここ数日は俺を含めた3人のうちの誰かしらが食器洗いをしているので、そのあたりは記憶違いの可能性もあるか。


 少なくとも今日の朝と昼は何も食べていない。強いて言うならば牛乳をいくらか飲んだ程度で、それで空腹が満たされるということはないだろう。


「昨日のアレのあとで、もしかしたら必要な食事の量が減ったのかな?」


 独り言のようにつぶやくが、マツリは不在で、イノリは眠ったように壁に寄りかかっている。マツリは確か買い物に行ってくるとかなんとか言っていたような気もするが、不意な疲労による眠気のような何かで、まだ動く気にはなれない。


 先週にあったことの状況を再現し、魂を奪われた時の状況再現と、それから……ん? もしかして、一瞬ではあってもマツリに魂を預けていたことになるのだろうか。思考に集中して、自分の中に不調がないか確認する。


 マツリに刺された場所には、もう傷跡も小さな痣すらもない。触っても普段と同じようにしか感じない。だけど、傷跡ではないところに違和感がある。


 奪われたり預けたりした魂の一部は、マツリの魂を接着剤替わりにすることによって、丁寧に繋ぎ治されていた。それと、離れた後から繋ぐまでの間に、妖精やマツリが維持しておくために使ったエネルギー。


「正直なところ、なんで理解できるか理解できないけども」


 いつの間にか起きていたイノリが、こちらに声をかけてくる。寝転がったまま思考していて注意を向けていなかったが、不意打ちに覆いかぶさるように抱き着かれてしまった。昨日からずっと動きを封じられることを繰り返されている。切るときと睡眠中と、それから風呂場と今。なかなか長い。


「自分の顔は自分では見れないでしょう? 鏡が必要。それと同じで、道具が必要なはずなの。まあ私という式神がいるから、と解釈することはできなくもないけど……見えたところで、普通ならそれが魂だってわかるはずがない。前提知識も少なかったはずだし」


 イノリの説明は、簡単な理屈を解説する程度のもので、専門的な何かを教えてくれるつもりではないようだ。


「夜中にマツリが切った部分は、マツリが修復に使った量よりも少ない……合計の量が増えてるから、違和感になったのかも。あるいは、そういった『量』をなんとなくで認識できるようになったのかしら。違和感がなんとなくわかるなら、妖精の悪意がある場所、なんとなくわかるかも?」


 とはいえ積極的に試すことはないわ、とイノリが続ける。ついでと言わんばかりに、俺の身体を撫でまわす。


 あの、また意識してしまいそうなんですが。


「とりあえず、だけども。対処することはできなくても、遭遇したり見つかったりする可能性はだいぶ下げることができたんじゃないかな。なんとなく、で移動先を決めても……いやむしろなんとなくで決めたほうがいいのかな。直観で動いたら遭遇しないと思う」


「そうなのか……ありがとう」


「あら、お礼ならマツリに伝えたほうが良いんじゃないの?」


「いや、イノリにもちゃんと言っておく必要があるでしょ」


「まあ、ご主人がそういうならその言葉はもらっておくね」


 イノリに抱きしめられて動けない状態のままそんな風に言われた。


 少しばかりマツリの帰りが遅いのが気掛かりだったが、なにか問題があったらマツリのほうから言ってくるんじゃないだろうか。少し念じればこちらに連絡することができるはずなのだし。


「マツリが返ってくる前に、何かやっておく?」


 からかうように聞かれたが、こうやって押さえつけられ押し付けられている状態でいっぱいいっぱいなのだった。


「なるほど、ご主人は3人一緒にするほうがお好み……と。マツリにも丸聞こえだからね」


「えっ、」


 明日はもしかしたら寝不足のまま学校に向かうことになるかもしれない、という可能性が沸いたままマツリの帰宅を待つことになった。


 まあ、さっきまでたくさん寝ていたし午後の授業は多くないから大丈夫だといいなぁ、とお祈りするしかなくなってしまった。


 嫌なわけではない。うれしいという考えもしっかりと持ち合わせているんだけれども。

面白かったと思ってくださったなら、画面下から【ポイント】評価や【ブックマーク】などを貰えると嬉しくなってやる気が出ます。


次回投稿は金曜日予定です。

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