薄い
ちょいグロい表現があります。
今夜は寝かさない、と言われていたが布団は敷かれている。マツリ達が来る前までは基本的に万年床だったのだが、今では基本的に夜眠るときにしか敷かれていない。
「布団があるかどうかはあまり関係ないのですが。座っているよりも横になっているほうが楽だとは思います。寝かさないというのは語弊がありまして、実際に眠れるならばそっちのほうが良いかもしれません」
「あー、もしかして痛いやつ?」
眠れないというのは痛みで眠れないということで、眠れるというのは痛みで気絶するほうだろうか。
「それなりに。以前に言いましたが、ご主人は人間から、私は獣帯から変異して、ご主人の知るところの人外になっています。でも、まだ殆ど元の分類と同じ……ご主人なら、まだ9割5分以上が人間として成立しているので、『違和感を感じることがある人間』と言えます。異能を手に入れたけれど、その力は弱いしうまく使えない。現状ではかろうじて見える程度なので、私たちがいなかったらそもそも気づいていなかったかもですね」
まあ原因は私ではあるのですが、とマツリは付け加える。そのあたりは殆ど覚えていないので、あまり気にしていないのだが。翌朝に布団に入っていた事のほうが個人的には重大な事案である。
イノリは俺の右腕に抱き着き、俺が……否、僕が逃げないように押さえ込んでいる。病院に連れていかれる犬猫を見ている飼い主のような表情でこちらを見ているが、特に何かを言ってきたりはしない。
あの、押さえ込みが強すぎて起き上がることすらできないんですが。
「傷は残りませんし、全部治すのでそのあたりは安心してください。といっても気休めにはならないですかね?」
「そのよくわからないものを見てしまうと、安心できないなぁ……」
30か40センチ程度ある、細く黒い棒。見た目の印象としては、キャンプでバーベキューするときに使う鉄串に似ているだろうか。ただし、先端はそれよりも鋭く、そしてかなり細い。
「これからやることは、あの晩に起きたことの簡単な再現です。実際に起きた状況の模倣、再現です。あの時ほどは痛みはないはず。ですが、得られる力がどの程度のものか分からないし、対応できるようになるには何年かかかる可能性……もしかしたら、これをやっても無駄かもしれません」
「見ないように回避する、っていうのが徹底できれば大丈夫だとは思うけど、それはちょっと難しいしな」
マツリに言わせてみるならば、まだほぼ人間と同じらしいし。2人の手を煩わせずに対処できるならば、そっちのほうが良いだろう。失敗したら申し訳ないが。
「では、ご主人の身体をお借りします。傷つけることをお許しください」
「改めて言われると、なんか……うん、覚悟きめた。やってくれ」
「あまり力を入れると痛みがあるかもしれないので、緊張せずリラックスしてくださいね」
「それは難しい注文だなぁ」
怖くないといえば嘘になる。変に緊張して腹筋に力が入ってしまっているのがわかる。
マツリとイノリは仕方ありませんね、というような表情を浮かべる。イノリのほうは、俺を押さえる少し前から殆ど口を開いていない。現状は『妹』ではなく『式神』としての側面が大きく出ているのだろう。
そうやって気を逸らしてみようと考えていたところ……マツリは黒い鉄棒のようなそれを、彼女自身の腹部に刺した。
「えっ」
思わず驚きの声を漏らしてしまう。しかし思い出す。これはあの日にあったことの再現だと。
マツリはその棒を引き抜き、棒から血液が滴らないように誘導しながら、それをこちらの腹に刺した。
鋭い痛みが届く。棒が止まるような感触はなく、貫通しているようだ。イノリの片手は貫通した反対側に当てられ、その手も一緒に貫通している。
数回その棒を回転させられてから、ようやく引き抜かれる。痛みはおさまらず、脂汗と血が混ざった液体が服や布団に染み込む。大きく深呼吸して、痛みを抑え込もうとするが、うまくいかない。
「ふぅーッ……ご主人、ちょっと待ってくださいね?」
マツリは棒をどこかにしまうと、自分の傷を確認することなく服をずらし胸を露出させた。
一瞬釘付けになりかけるが、痛みのおかげで視線を合わせ続けることができなかった。それがよかったのか悪かったのか、動いた痛みで意識は落ちてしまった。
***
意識が戻る。異物感はあるものの傷も痛みももうない。感覚的にはまだ大丈夫というわけではないが、朝には大丈夫になっているだろうか。
傷があったところに視線を向ける。シーツに染み込んだ血液と汗、それから甘い匂いの液体……おそらく牛乳であろう液体が水溜まりを作っていた。どういう理屈かはわからないけど、それを使って治癒させたんだろう。
うん、深くは考えない。
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次回投稿は月曜日予定です。




