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長らくお待たせいたしました。

 駅や電車内で話すことはなく、少し時間をかけて下宿先に戻ってきた。意図しない無言がプレッシャーになって、実際の時間よりもかなり長く揺られていたような気がした。実際には電車に乗り遅れたせいで逃した15分程度なのだが。


 これからいろいろと説明を受ける……と思っていたのだが、今現在はなぜかイノリに後ろから抱き着かれている。マツリは気にしていないのか、あるいは内に秘めた考えがあるのだろうか。今のところはその行動に何も言ってこない。ただ買ったもののいくつかの梱包を解き、もともと少ししか服がなかったクローゼットにしまい込んでいる。今回の買い物だけで俺の服よりも2人の服のほうが多くなっている。


「と、そういうのは後でいいんだ。詳しいこと、聞かせてもらっても?」


 2人が、もしかしたら俺を、『そのこと』から遠ざけておきたいとか考えているならば話さないかもしれないが、この辺りは頼み込めば、あるいは命じてしまえば言ってくれるだろう。2人が前以て話してくれるといったことを撤回することはないだろうけれども。


「えーと、どこまで言いましたっけ、あのご主人からはモヤモヤに見えてるものについて。回避すれば大丈夫だけれど、対応するにはもしかしたら年単位かかる……ほかに何かお伝えしてましたっけ」


 マツリは少しばかり真剣な口調で、しかし片付けの続きをしながら話してくる。いつもの他愛無い雑談とか、あるいは夕飯の希望を聞く時のような、口調に反して真剣な何かを話すような雰囲気ではない。


「あれは、妖精という現象の偏りが大きいところで、悪意なき害意がある場所……ただ『何か』を起こしてみたい、だったり、あるいは『何か』が欲しいとか。見えない状態ではぶつかったときに、不幸な目にあったりします。軽いものではちょっと転んだり物をなくしたりとか、大きいものでは車にぶつかったり命をなくしたりとか。実際にあたっても、見えなければ不幸な事柄で済みます。済むといったらすこし語弊があるかもしれませんが、それでも、なにかしらが起きて終わり、です」


 マツリはお茶を沸かしながら、こちらのほうに視線を向けることなく話を続ける。声は普段のものよりも少し大きく、もしかしたら近所に聞こえてしまうのではないか、と一瞬不安になってしまうくらいだ。


「こちらから見たうえでさらに関わってしまったならば、その妖精に認識されるの。よくある怪異現象で知ったらダメ、見たらダメというものがあるけどがそこまでは厳しくなくて、知ったことを知られたら問題あり、っていうかんじで。線引きが相手側の認知次第になるから、正直なところこっちからできることはあまりないのだけど」


 イノリが言葉を引き継ぎ、俺のことを押さえ込んだまま説明してくれる。


「ご主人は私たちとある程度繋がってしまっているせいで、あいつらが少しですが見えるようになっています。なので認識できてしまっている。妖精に知られないようにするには、可能な限り接触を避ける、ですかね。それでも万全というわけではありませんが」


「もし仮に、俺が聞かなかったらどういう対応をしていた?」


「たぶん私たちが、ご主人に危害が向かないように囮をやってたんじゃないですかね? そのあたりは私たちで相談して決める予定でした。もしかしたら囮ではなかったかもしれないですけども、ご主人に危害が行かないようにうまく立ち回るつもりで考えていましたよ」


 守ってもらうのだから怒るのはお門違いのような気もするけれども、2人が俺の……僕の知らない場所で傷つくようなことがあったら、それはなんだか我慢ならないような気がした。


「まあ、そうはならなかったんですし。ご主人に説明はできたので……とはいっても今までとご主人にしてもらうことが何か違うかといえば、積極的に避けてもらうっていうのと、それからなるべく見ないように、っていう相反する行動ですかね。見ずに避けるっていうのは難しいでしょうし、いつでも私たちが近くにいられるとは限らないですから」


「帰る前にもさっきも言いはしたけれど、回避さえできればどうとでもなるの。回避が難しい状況には、そう簡単にはならないと思う」


「私たちがいなくて、かつ回避できない状況になったら……そんなことがないようにするためにイノリにはいろいろやってもらいますか」


「いわれなくてもやるけど、万一は想定しておいたほうがいいわね。ご主人、今夜は眠れないと考えておきなさい」


 不埒な想像をしてしまったが、そういうことではないのだろう。いやもしかしたら、そういうことなのかもしれないが。

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