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好意

 深夜帯に目が覚めた。横向きになったまま、回らない思考を整える。


 夢を見ていたような気がするが、悪夢ではなかった、くらいしか覚えていない。覚えている範囲では……そう、マツリ達と何かを話していた。記憶にならないような、他愛ないことを。


「そのマツリ達は……どこだ?」


 いつの間にか膝枕をしていたマツリがいなくなっていたので、寝ているのだろう、と考えていたが。


「ほら、そんなに騒いでいたからご主人が起きてしまいましたよ?」


「私のせいではないわ、大きい方のせい。と言いたいけれども、否定できないのよね」


「あら、大きい方、ではなく『お姉ちゃん』じゃない?」


「姉扱いしたのはこっちが先だけど、そんな呼び方はまだしてないし、するつもりもないんだけど」


「あら、そうだったかしらー?」


 うーん?


 最初に、ちびマツリの口調が少し変わっているような気がした。もしかしたらそっちが『素』である可能性もあるが、一番大きな変化のせいでしまったんじゃないだろうか?


 次に気になったのが、姉呼び。俺が眠っている深夜帯にどんなやりとりがあったかはわからないが、それでも微笑ましいものだったのだろう、と想像がつくくらいには仲がいいやり取りをしている。


 そして、最後にちびマツリの体格。


 二頭身フィギュアくらいの体の大きさと体型だったはずなんだが、どう見ても女子中学生程度の身長と、アニメや漫画で見るような大きなテールのように括っている長い髪。それから、背後から見てもわかるような、マツリと比べても遜色ないほどの大きさがある胸。


 メイド服は体格に合わせて変化したのか、それとも作ったのか。家に布はなかったが、マツリ自身が趣味だと言っていたので、非現実的な方法で作れるのだろう。


 体格も口調も変わったのに、よくちびマツリだと理解できたな、とふと思うが、他に誰かしらがいる訳でもなし、単純に消去法かもしれない。


「それで、ご主人。起こしてしまいましたか? この姉が騒がしくしていたせいで」


「ああいや、そういうことではないんだが。せっかく起きたんだし、水分補給でもしておこうかと」


「じゃあ、冷蔵庫に牛乳を用意してありますので、好きな方を飲んでくださいね?」


「別に両方飲んだって構わないのですけど!」


 そういえば、マツリが朝に絞った牛乳云々の話をした時に性的倒錯者かと疑ってしまったが、アレは僕……俺の為だったんだよな。詳しい話を聞いていなかったとはいえ、変な疑いをかけてしまった。


 いや、それなら今積極的に飲む理由はないから、やはり性的倒錯者なのでは。俺は覚えた。


「なにやら不本意な理解のされ方をした気がしますが」


「ご主人、念話が筒抜けになっているのよ」


 2人は不本意だ、と言わんばかりの態度でこそあるけれど、違うとは否定しなかった。


 それに、飲む分にはかなり甘いというだけの牛乳なのだし、気にする事はないか。


「そういえば、だけど。なんというか『ちびマツリ』っていう感じじゃない見た目になっちゃったよな」


「どこ見て言ってんですか、ご主人。見るなとは言いませんけど、その視線はなんだか嫌です」


 窘められてしまった。とはいえ、身体は大きくなってしまったし、髪はマツリより長く、毛の色も茶色がかなり強いように見える。


「とはいえ、コレの妹になった訳なので、確かに名前は新しい方がいろいろと便利ではありますね。このままだと、ご主人に何かあった時、タイミング次第では十分に力を発揮できないかもしれないですし」


「もう当面危険はないと考えてはいますが、杞憂の事態に備えることもメイドの役割ですし」


「この身体になったから、自爆はもう出来ないかも」


 自爆や圧力で爆発云々は本当の事だったのか。しれっと怖い事を言ってくれる。


「新しい名前、って言ってもな。俺のセンスは期待しないでくれよ?」


「小さい状態だった時にちびマツリだった時点で、あんまり気にしてはいませんが。普通の名前だったら、『ちび』呼ばわりよりはだいぶマシになるでしょう」


「それもそうか。じゃあ、」


「ちょっと待ってください。普通のペットには食べ物の名前とかをつけたりするかもだけど、私はペットじゃなくてメイドなので。普通の人間にいてもおかしくないような名前にしてくださいよ」


 もしメロンとかクッキーとか付けていたらボコボコにされていたんじゃないだろうか、という気迫である。


 確かに一瞬考えなかったわけではないが、そういった呼び名をつけて困るのはこちらである。呼ぶ時に恥ずかしい。


「んんー、じゃあ『イノリ』とかはどうだろう?」


 俺のネーミングセンスの限界である。祭り、と雰囲気で繋がるような名前を考えてみた。


「まあ、悪くはないんじゃないですか。良いとも言い切れないけど。でも、ご主人は一生懸命に考えてくれたのはわかったから、それだけで価値があるわ」


 ちびマツリ改め『イノリ』は俺にそう告げると、対面から寄りかかるように抱きついてきた。


「あ、ちょっと待ってずるいですよ!」


 マツリがそういうが、イノリはからかうようにニヤニヤ笑いを返すだけだった。


 この姉妹、やはり似ている。


 まあ、このまま抱きつかれているわけにもいかないのだろうけど……しばらくは、こうしていよう。



次回投稿は来週月曜日の朝予定です。


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