第8話 飲み会(1)
退院して数日後、僕は友人と飲みに行くふりをした。両親は飲むなと言わず、変わりにまた飲み過ぎるなよと飲みながらも忠告してくれた。しかし実際の飲み相手は友人なんかではない。宇宙とだ。男と男の約束、ここで果たさねばいつ果たすか。期待の日が今日ならば。と、あるアニメのオープニングテーマのような気分で勇んで集合場所へと向かう。もう既に宇宙は呑んでいた。とりあえずお冷を一杯。店の主にそう告げる。カウンター席だから、話しかけることができない。ちびちびと飲んで、ちびちびと肴を頼み、ちびちびとそれを喰らう。僕も宇宙もそれの繰り返しだった。飲みっぷりを見ていると宇宙がうらやましかった。例えではあるが、仮に1000万円のキャビアを食っても無料なのだ。見えていないのだから払いようがない。まず、注文できないだろう、というツッコミがありそうだが。しかし僕が1000万円のキャビアを頼むと、それだけで1000万円払わなければならない。視力が極端に弱いとかでもない限り、僕は全人に見えるのだ。なんか悔しい。
結局、ここではあまり飲まなかった。僕が入って1時間もしないうちに宇宙がお愛想したからだった。もう少しいたかったが、宇宙が「はやくこい」と口元で言っていたので僕も釣られてお愛想した。ちびちびが効いたか、酔いもあまりなく、値段もそんなに高くなかった。2軒目は宇宙の紹介だという。いつの間に飲み屋に詳しくなったんだよ、と聞こうと思うその前に店に着いた。入るとカウンターはなく、全て個室だった。しかも看板には「防音壁」の文字。なるほど、やっぱり話こそ最強の肴らしい。僕は1人です、と言って個室に向かった。




