第6話 社会人1年生(3)
いつまで、そうしていたか分からない。気づいたとき、僕も雨に打たれながらわんわん泣いていた。我に戻ったのは先輩がなかなか帰ってこない僕を心配して探しに来た時だった。「松尾、一体どうしたんだ」「友人を殺してしまったかもしれないんです」「どこにも誰もいないぞ。どこで殺したんだ」「屋上からです」遠い意識の中で、宇宙が横たわっている下に降りている、というのはうっすら分かっていたようだ。だが、宇宙が見えていないことまで意識が回らなかった。「落ち着け、誰もいないぞ」先輩のその声で思い出したぐらいだった。しかし目を開けると宇宙の体は赤く染まっていた。叫んだら変人と思われる。そんな人生、御免だ。いつぞやの記憶が蘇り、言わないことにした。もう既に変人と思われているかもしれない。そう思いながら仕事場に戻った。もちろんリーダーからは厳しく叱られ、遅刻届けと始末書を欠かされる羽目になった。仕事は与えられず、それを書くのが今日の仕事、といった感じだ。
その途中、さっきの先輩がこそっと言ってきた。「お前、精神科に行ったほうがいいんじゃないのか」なんでも、その先輩の両親は精神科医で、先輩自身、精神科にお世話になるような人たちとはよく接していたらしい。そして、そこで学んだのが彼らは被害妄想があるということだった。やってないことをやったと思い込む、まさに典型的なそれだよ、と言葉を濁しつつもその先輩は教えてくれた。しかしどうなんだろう。宇宙が見えていることは精神的にダメなんだろうか。さらに変人と思われていくだけなんだろうか。この先輩にだけは話したほうがいいのかな―そう思っていると、宇宙が帰ってきた。真っ赤に染まった服で。




